透析困難症って?透析治療が心身へ与える影響とは
透析困難症という言葉を聞いたことがありますか?透析困難症になると、「透析治療を受けたくない」という拒否感や医療スタッフとの関係性の悪化、透析をキャンセルしてしまうという事態になることもあります。
今回は、透析困難症とはどのような病態であるのか、透析困難症が患者さんへ与える心身への影響と対応策についてみていきましょう。
透析困難症とは
透析困難症とは血液透析治療中に血圧低下が起こり、動悸、冷や汗、気分不良、吐き気、筋けいれん、胸痛、意識障害などの症状を伴って、透析治療を続けることが難しくなる状態のことを言います。
透析困難症が起こる原因は、透析低血圧、不均衡症候群、年齢、透析機材の生体不適合、透析に対する不安や抑うつなどの心因反応、原疾患、合併症などの影響が考えられます。
参考文献:透析困難症/透析低血圧について
透析低血圧が原因で起こる透析困難症
透析低血圧を起こす原因と透析困難症の関係
透析患者さんは、腎臓のはたらきが悪くなっているため、尿を十分に排泄することができません。
身体に水分が溜まりやすい状態であるため、透析治療前後で体重は大きく変動します。透析患者さんの本来の体重を体重計で測った値のみで把握することは難しく、胸部レントゲン検査で心臓の大きさと胸の幅を測り、胸の幅に対する心臓の大きさの割合から体重を想定します。
この仮の体重を透析治療後の目標体重(ドライウェイト)として、透析治療で身体から取り除く水の量を決定しています。
ただし、毎日の生活の中で筋肉や脂肪などの水分以外のものによって体重が増えている場合は、設定されたドライウェイトの値で水分を引いてしまうと、身体の中の水分が必要以上に取り除かれてしまいます。
そのため脱水状態となり、動悸や冷や汗、筋けいれん、吐き気なといった透析困難症の症状が現れます。
参考文献:透析低血圧について
透析治療が心身へ与える影響
透析困難症が起こると、その日の透析治療を最後まで行うことができなくなってしまうため、次回以降の透析治療に影響が出ます。
ドライウェイトまで水分を取り除くことができなければ、次回の透析治療では、前回の透析治療で引き残した水分も合わせて引くことになります。除水量が多くなると身体への負担が増し再び、透析困難症の症状が現れ、透析治療を中断しなければならないといった悪循環となることも珍しくありません。
このように、透析治療を行うたびに辛い症状が現れ、中断せざるを得ないことが繰り返されると、透析治療が辛く苦しいものとなります。ドライウェイトまで除水を達成できないと、心臓へ負担がかかって心不全を発症することや病態が悪化することもあります。
透析治療を中断すると、次回の透析治療時までに増えても良い体重増加分が少なくなるので、食事・水分制限も厳しくなり、日常生活での制限も増えます。
透析困難症では次のような心身への影響が現れます。
- ・治療に対しての拒否感
- ・医療者からの注意指導の受け入れ困難、関係性の悪化
- ・透析治療を受けることや将来への不安
- ・気分の落ち込み
- ・イライラ
- ・やる気の低下
- ・集中力の低下
- ・胸が重苦しい
- ・不眠
- ・疎外感・孤独感
- ・買い物やギャンブルへの依存
- ・運動をしない
- ・食べ過ぎ
- ・ふらつき
- ・透析治療をキャンセルしてしまう
透析困難症への対応策
透析困難症を発症すると、透析治療がうまくいかなくなるばかりか、心身の不調が生じ、生活の質も低下します。
透析困難症を発症した場合には、以下の対応策を受けましょう。
ドライウェイトの再チェックを受ける
透析治療中に低血圧の症状で中断せざるを得なくなった場合、再度ドライウェイトが適正であるかのチェックを受けることが大切です
食事・水分制限も守り、運動を継続して筋肉量が増えている場合には、水分ではなく、筋肉によって体重が増加していることもあります。
胸部レントゲン検査や心臓超音波検査、血液検査などを受け、過去の結果との変化を確認して、ドライウェイトの見直しを受けることも必要です。
食事・水分・内服についての指導を受ける
自分では食事や水分の制限をきちんと守っているつもりでも、思わぬところで塩分や水分を摂りすぎていることがあるかもしれません。
透析治療間の体重の増加を抑えられると除水量が減少し、透析困難症の予防や心不全発症の予防にもつながります。
食事・水分の制限や、内服薬を飲むタイミング・飲み方についての指導を定期的に受け直すようにしましょう。
透析治療方法などの検討
血液濾過透析(HF)や血液透析濾過(HDF)、腹膜透析などのほかの治療方法の検討や、透析機材(ダイアライザ)の変更、長時間透析で長い時間かけて少しずつ除水を行うなど、透析困難症の症状が起こりにくい治療方法の検討を行うこともあります。
生理食塩水の補液や昇圧剤の使用
透析治療で低血圧がみられる場合、過度の除水によって血管内が脱水状態となっているため、生理食塩水を補液して対応することがあります。
生理食塩水の補液だけでは不十分な場合は、昇圧剤を使って血圧を上げることもあります。
まとめ
透析困難症は、血圧の低下や吐き気、動悸、筋けいれんなどが透析治療中に起こり、透析治療を中断せざるを得なくなります。
透析時の苦痛が毎回繰り返されること・食事や水分量の制限が厳しくなることによる患者さんへの心身への影響は大きく、ストレスが強くかかることで透析をキャンセルしてしまう事態にも発展します。
透析困難症に対しては、ドライウェイトの見直しや食事・水分量や内服の指導、治療方法の検討、生理食塩水の補液や昇圧剤の投与などが行われます。透析中に気分不良などの症状がみられたら、すみやかに担当医にその旨を伝え、対応・対策を受けましょう。
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