透析開始後の寿命はどれくらい?気を付けたい合併症と予防方法
透析医療の進歩により透析患者さんの平均寿命は延びていますが、透析開始後の平均余命は、一般人口の平均余命よりも短いことが知られています。
透析患者さんの死亡原因の上位は心血管疾患が占めています。心臓への負担を軽くするケアによって、合併症を予防することが大切です。
今回は、年齢別ごとの透析開始後の寿命と、透析患者さんが気をつけたい合併症・予防方法について詳しく解説していきます。
透析治療開始からの寿命とは
透析治療開始後からの寿命は、透析治療を導入し始めた年齢からの生命予後を示したものです。
透析患者さんの平均余命と一般人口の平均余命
「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2003年の透析患者さんの平均余命は50歳の男性で14.55年、50歳の女性で16.74年、60歳の男性で9.87年、60歳の女性で11.31年、70歳の男性で6.24年、70歳の女性で7.11年となっています。
透析患者さんの平均余命は、一般人口の平均余命と比べると半分程度と言われています。実際に、2003年の透析患者さんの平均余命と一般人口の平均余命を比べると、それぞれの年齢で半分以下であることがわかります。
ただし、こちらは2003年のデータであるため、現在は透析医療の進歩により、平均余命はもっと長くなっていると考えられます。
年齢(歳) | 透析患者平均余命(男性) | 一般人口平均余命(男性) | 透析患者平均余命(女性) | 一般人口平均余命(女性) |
---|---|---|---|---|
60 | 9.87 | 21.98 | 11.31 | 27.49 |
65 | 7.86 | 18.02 | 9.04 | 23.04 |
70 | 6.24 | 14.35 | 7.11 | 18.75 |
75 | 4.77 | 11.09 | 5.67 | 14.72 |
80 | 3.82 | 8.26 | 4.43 | 11.04 |
表1:透析患者の平均余命と一般人口の平均余命
出典:日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況2005年12月31日現在 Ⅲ.2004年末調査項目に関する予後解析 表1 2003年 (平成15年)男性 透析患者 平均余命(生命表)、表2 2003年 (平成15年)女性 透析患者 平均余命(生命表)より一部抜粋
2015年末のデータでは、透析導入後の1年生存率は年々改善傾向にあります。5年生存率も1992年以降に透析治療を導入した患者さんでは改善傾向がみられます。
また、2017年末のデータで、2003年と2017年の透析歴を比べてみると、25年以上の透析歴の人は、2003年は5,996人に対し、2017年は14,133人と倍以上に増加しています。
10年以上の長期透析患者さんは2017年末で8万9,305人であり、2003年よりも3万人近く増えています。
透析歴(年) | 2003年(人) | 2017年(人) |
---|---|---|
~4年 | 117,116 | 152,416 |
5~9年 | 56,169 | 79,590 |
10~14年 | 26,710 | 40,397 |
15~19年 | 14,463 | 22,239 |
20~24年 | 8,992 | 12,536 |
25年~ | 5,996 | 14,133 |
10年以上 | 56,161 | 89,305 |
透析寿命を延ばすために大切な心臓ケア
2017年末の透析患者さんの死亡原因をみると、第一位は心不全(24.0%)、第二位は感染症(21.1%)、第三位は悪性腫瘍(9.0%)、第四位は脳血管障害(6.0%)、第5位は心筋梗塞(3.8%)です。
透析患者さんの死亡原因の第一位は、1983年から心不全で変わりがありません。心不全と脳血管障害、心筋梗塞の心血管疾患を合わせると33.8%となり、透析患者さんの死亡原因の三分の一を心血管疾患が占めていることになります。
心臓の機能低下は透析開始後の平均寿命に深く関与しており、透析患者さんにとって心臓ケアは平均寿命を延ばすためにとても重要です。
透析患者さんの心臓の機能が低下する理由
透析患者さんが心血管疾患にかかりやすい理由には、以下の事柄が挙げられます。
- ・腎臓の働きが弱まることで尿が作られにくくなって体内の水分が増えることで心臓に負担がかかる
- ・透析患者さんは高血圧や糖尿病、高脂血症、加齢などで動脈硬化が進行していることが多く、血管が狭くなったり、詰まったりして起こる虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)になりやすい
- ・腎臓の機能が低下して貧血になり、身体が酸素不足になると、心臓が酸素を全身に送るために過剰に働いて徐々に心臓の機能低下が起こる
心臓の機能低下と腎臓の機能低下は互に作用し合っている関係にあります。
透析患者さんは、腎臓の機能低下とともに心臓の機能低下も起こりやすいということを心に留めて、定期的に心機能の検査を受けて早期治療につなげましょう。
また、指導を受けている透析食と水分摂取量を守り、心臓へかかる負担を軽減することも長く健康であるために大切です。
透析中に気を付けたい合併症
心血管疾患以外にも透析中に気をつけたい合併症としては、死亡原因の第二位となっている感染症が挙げられます。
感染症
透析患者さんは、食事制限による栄養不足や腎性貧血、身体に尿毒素が溜まることから免疫が低下しやすく、感染症にかかりやすい状態にあります。
また、肺炎などの気道感染症や尿路感染症、皮膚感染症、シャントの感染、消化管感染症にかかると、重症化するリスクがあるため注意が必要です。
指導されている透析食を守りながらバランスよく栄養を摂り、十分に透析を受けて尿毒素が体内へ蓄積することを予防しましょう。
身体を清潔に保って尿路感染症や皮膚感染症の予防を心がけましょう。そのほか外出後のうがい・手洗いの励行によって、気道感染症を予防することも大切です。
体調の小さな変化を見逃さないようにして、早めに受診して治療を受けるようにしましょう。
その他の合併症
透析患者さんの場合、骨代謝障害による骨折にも気をつけたいところです。
透析患者さんは、腎機能の低下によって身体にリンが溜まりやすくなります。リンが身体に溜まるとカルシウムが吸収されにくくなり、カルシウムを補うために骨が分解されて骨密度が低下します。その結果、骨がもろく弱くなり、骨折しやすくなります。
骨折がきっかけとなって寝たきりや要介護となることも少なくありません。バランスのとれた食事と適度な運動により、骨粗鬆症を予防するようにしましょう。
骨粗鬆症と透析の関係について詳しくは、こちらの記事もご確認ください。
☆骨粗鬆症にも注意!透析と骨密度の意外な関係
まとめ
透析開始後の寿命は昔に比べて長くなってきていますが、より長く健康であるためには合併症に注意が必要です。
透析患者さんの生命予後は合併症にも大きく左右され、とくに死亡リスクが高い心血管疾患に注意が必要です。
腎機能が低下すると心機能も低下しやすいため、指導を受けている食事内容や水分摂取量を守って心臓への負担を軽減し、合併症の予防を心がけましょう。
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