透析患者さんに多い腹痛。起こりやすい病変と対策
透析患者さんでよくみられる症状のひとつとして腹痛があります。透析患者さんの日常的な悩みに多い便秘でも腹痛はみられますが、放っておくと命にかかわる危険性のある腹痛もあります。
透析患者さんの腹痛の原因として多い消化器系の病変や、透析中に起こる腹痛の対策法をみていきましょう。
透析患者さんに多い消化器系の病変
透析患者さんにみられる消化器系の病変のうち、よくみられるものは胃・十二指腸の病変です。その中でもとくに多いのは胃炎です。十二指腸炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍もみられます。
胃や十二指腸の炎症や潰瘍は出血することがあります。透析患者さんは血液が固まることを防ぐためにヘパリンなどの抗凝固薬を使用しているので、胃や十二指腸などの消化管からの出血が起こると多量に出血して高度の貧血を起こし、命にかかわる状態となることもあります。
実際に、透析患者さんの死亡原因の上位に消化管出血が入っており、消化管出血は注意すべき症状です。
透析患者さんが胃・十二指腸の炎症、潰瘍を起こす原因
透析患者さんは透析治療や日常生活における食事制限などで身体的にも精神的にもストレスを受けやすい状態にあることに加えて、胃液の分泌異常、胃液から胃の粘膜を守るはたらきの低下、胃粘膜の血流低下、複数の薬を服用していることにより、胃粘膜が傷つきやすい状態です。そのため、胃粘膜のただれや潰瘍が起こりやすくなります。
参考文献:1)日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2018 年 12 月 31 日現在)
透析中に起こる腹痛の対策
透析治療中に腹痛の症状が起こることもあります。
透析中の腹痛を予防するためには次の対策が有効です。
- ・腹部を冷やすと血流が悪くなるので、冷やさないように温めます
- ・血流を促すためにお腹をマッサージします
- ・便秘がある場合は便通を整えることも大切です
- ・体重が増えると多量の除水が必要となり、血圧が低下しやすくなるので体重コントロールを心がけます
その他よくある腹痛の原因
虚血による腹痛のほかにも、消化器系の病変として胆石症・胆のう炎、急性膵炎・慢性膵炎、慢性肝炎・肝硬変、胃がん・大腸がんなどでも腹痛が生じることがあります。日常的に透析患者さんによくみられる便秘でも腹痛は起こります。
便秘
透析患者さんは日常的な食事において水分制限とカリウム制限があり、水分や食物繊維の摂取量が少なくなりがちなため、便秘になりやすいことが知られています。
胆石症・胆のう炎
糖尿病があると胆石を合併する率が高く、糖尿病腎症の透析患者さんで胆石症の発症がみられます。
胆のうの出入り口が胆石で塞がると食事後に胆のうのある右上腹部付近に激痛がみられます。胆石で出入り口が塞がり胆汁が滞って炎症を起こすと胆のう炎となり、腹痛と発熱がみられます。
急性膵炎・慢性膵炎
透析患者さんでは膵臓の病気を合併することが多く、急激に膵臓の炎症が起こす急性膵炎や長期間にわたって膵臓の炎症が続く慢性膵炎がある場合に腹痛がみられます。
胃がん・大腸がん
がんで亡くなる透析患者さんは心不全、感染症に続いて高い割合です。透析患者さんは高齢者の割合が多いこと、慢性的な炎症が生じていること、免疫力が低下していること、栄養障害などの要因からがんの発症率が高いことが言われています。
腎がん以外では胃がん・大腸がん、結腸がん・直腸がん、肝臓がんなどの消化器系のがんの発症が多くなっています。
胃がんでは胸やけや吐き気、嘔吐共に上腹部の痛みなどの症状がみられ、大腸がんでは繰り返す便秘・下痢、血便、残便感、腹痛などの症状がみられます。肝臓がんは腫瘍が大きくなるとお腹の張りや腹痛が生じます。
まとめ
透析患者さんでは腹痛の症状がよくみられます。透析患者さんは除水や水分制限の影響で血流が低下しており、胃や腸の粘膜がただれややすく、炎症や潰瘍が起こりやすい状態です。
消化器系の潰瘍から出血が起こると、血液を固まりにくくさせる薬を服用している透析患者さんは大量出血に至り、命にかかわることもあるため大変危険です。
透析患者さんに合併しやすい肝疾患や膵疾患、がんなどでも腹痛は起こります。それらの病気が重篤な状態に進行する前に適切な治療が行えるよう、定期的な検査を受けることも大切です。
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