視力低下を起こしやすい?透析と目のお話
透析治療を受けている患者さんで視力障害がある人は少なくありません。視力の低下は透析を受けるきっかけとなる慢性腎不全や糖尿病、高血圧などが原因となって起こります。
視力障害のある透析患者さんはどのくらいいるのか、視力低下をきたす原因と治療法について詳しくみていきましょう。
透析による視力低下が起こる場合がある
糖尿病腎症がきっかけで、透析導入となる透析患者さんは年々増加しています。2018年時点での透析導入の原疾患として最も多いのは糖尿病性腎症(男性42.7%、女性32.0%)です。
糖尿病のある透析患者さんが糖尿病性網膜症を発症し、症状が進行すると視力低下や失明が起こります。慢性腎不全が進行して尿毒症となり、視力低下が起こることもあります。
2007年のわが国の慢性透析療法の現況によると、約2割(22.9%)の透析患者さんが、透析を導入する時からすでに、尿毒症性網膜症および糖尿病性網膜症による視力障害があったと報告されています。
透析導入時に37~85%の糖尿病患者さんが視力低下や失明を起こす増殖網膜症を合併していることや、0.1 以下の高度視力障害のある透析患者さんが47~54%いるという国内外の報告もあります。
参考文献:一般社団法人 日本透析医学会 血液透析患者の糖尿病治療ガイド
透析による視力低下の原因
透析治療を受ける患者さんは腎不全による尿毒症性網膜症、糖尿病性腎症による糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、高血圧、白内障などが原因で視力低下を起こします。
尿毒症性網膜症
腎機能低下が進み、身体の中に老廃物や有害な物質が溜まる尿毒症になると全身に症状が出ます。全身症状のひとつとして視力低下が起こります。
糖尿病性網膜症
糖尿病性網膜症は失明の原因の上位にランクインしています。糖尿病で高血糖の状態が続くと網膜の血管の流れが悪くなり、出血や網膜剥離が起こって視力低下をきたします。
進行すると失明することもあります。糖尿病性網膜症は単純網膜症→増殖前網膜症→増殖網膜症の順に進んでいきます。
増殖前網膜症の状態になると、血管の流れが途絶えた部分に酸素や栄養を送るために新生血管が生じます。新生血管が破れて硝子体出血を起こすことや新生血管の周りにできた増殖膜が網膜を引っ張って網膜剥離を起こすと視力低下や失明に至ることもあります。
糖尿病黄斑浮腫
糖尿病で高血糖状態が続くと、網膜の中にあるものを見るために最も重要な部分である黄斑に浮腫が生じることがあります。黄斑浮腫が起こると視力が低下します。
高血圧
高血圧のある透析患者さんでは網膜の血管に負荷がかかり、動脈の壁が硬くなって動脈硬化が起こります。
血液の流れが悪くなり、網膜に酸素や栄養を届ける毛細血管が詰まったり破れたりすると、増殖網膜症の経過を辿って視力低下をきたします。
白内障
白内障を発症する確率は加齢にともなって高くなりますが、糖尿病を合併している透析患者さんや治療でステロイドを長期間使用している患者さんは白内障になる確率が高くなります。
白内障になると水晶体が濁り、はっきりと像がうつりにくくなって進行すると視力が低下します。
透析による視力低下の治療法
尿毒症や糖尿病、高血圧による視力低下は原因疾患の治療と血糖値および血圧のコントロール、食事療法が基本となります。
透析患者さんに多い糖尿病性網膜症や糖尿病黄斑浮腫では、透析治療で網膜症の進行の予防や黄斑浮腫の改善が期待できます。
最近では透析治療を導入する前に光凝固療法や硝子体手術を実施していて増殖網膜症まで進行しているケースは少なくなってきていますが、重度の視力低下が透析導入時からみられるケースでは、透析治療を行っても視力の改善が望めないケースもあります。
白内障は基本的に水晶体を取り除く手術が行われます。
まとめ
透析患者さんでは慢性腎不全による尿毒症や糖尿病、高血圧の合併によって網膜症や黄斑浮腫が起こり、視力低下をきたすことがあります。網膜症は段階的に進み、増殖網膜症となると硝子体出血や網膜剥離を起こして視力低下や失明に至ります。
網膜症の進行の予防や黄斑浮腫の改善のためには、透析治療の導入が望まれています。日常生活での食事療法や服薬で原因疾患の治療を続け、透析治療もしっかりと受けて重篤な視力障害への進行を防ぎましょう。
※コラムに関する個別のご質問には応じておりません。また、当院以外の施設の紹介もできかねます。恐れ入りますが、ご了承ください。
※当ブログの記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねます。ご了承ください。