【必読】シャントの合併症の種類と対処法
シャントの合併症が起こることは、透析患者さんにとっては透析治療が受けられなくなるという大きな問題にもつながります。その一方で、繰り返し負荷のかかるシャントの合併症は避けにくい問題でもあります。
ここではシャントの合併症の種類と合併症を防ぐための対策について学んでいきましょう。
シャントに合併症が起こる?
まず最初に、なぜシャントに合併症が起こるのでしょうか?
透析治療を行う際には、身体から一度にたくさんの血液をとり出す必要があるため、シャントをつくります。長期間、繰り返しシャントに針を刺すことでシャントに負荷がかかり、合併症が起こりやすくなります。
シャントとは
透析患者さんが透析治療に必要な血液量を得るために、手術で動脈と静脈をつないだ血管をシャントと言います。
シャントの多くは、自分の動脈と静脈をつないだ自己血管内シャントと呼ばれるものです。そのほか自分の血管からシャントをつくれない場合には人工血管を移植してつなぐ人工血管内シャントを使用します。
繰り返しシャントに負荷がかかって合併症が起こる
シャントに負荷がかかって合併症が起こる原因は何でしょうか?
透析治療では、治療を受けるたびにシャントに身体から血液をとり出す箇所と血液を身体に返す箇所の2か所に針を刺します。一般的な透析治療では週に3回シャントに針を刺すことを繰り返し、長期間の透析治療によってだんだんとシャントが傷んできます。
そのため、シャントが感染を起こす、シャントが細く狭くなる、シャントが詰まる、シャントに瘤ができる、血液の流れが悪くなる、血液が溜まって腕が腫れるなどの合併症が生じやすくなります。
シャントの合併症の種類
シャントの合併症には次のような種類があります。
感染
シャントの手術時の傷や、シャントに刺す針や針を刺した傷から細菌感染を起こすことがあります。
感染症を起こしている場合、シャントの針を刺す箇所が赤い、痛い、腫れる、熱感がある、膿が出るなどの症状がみられます。
感染症への治療としては抗生剤の投与を行いますが、細菌が全身に回って敗血症を起こすと命に関わるため、シャントを閉じる必要があります。人工血管の場合には人工血管を取り除きます。
シャント狭窄・シャント閉塞
シャント血管の内側の壁が傷つき、壁が厚くなって血管が狭くなった状態をシャント狭窄と言います。狭窄が起こると血液量を十分に得られなくなります。
また、シャント閉塞とはシャントが詰まってしまうことです。シャントの狭窄から閉塞に至る場合や、シャントが圧迫されることでも閉塞は起こります。狭窄や閉塞は、風船のついた管を通して血管を拡げる治療や、手術でシャントを作り直すことが必要となります。
シャント瘤
シャント瘤とは、シャントの一部分が拡がってこぶ状に膨れる状態を言います。シャント血管内に圧がかかることや血流が多くなること、針を刺す部分の皮膚が薄くなることなどで生じます。
瘤が大きくなり、痛みや赤み、皮膚が引き伸ばされて薄くなるなどの症状がみられたら、破裂や出血の危険があります。瘤を切除し、代わりに人工血管を入れることやシャントの作り直しを行います。
スチール症候群
スチール症候群は指先に血流が巡らないことにより、循環障害を起こして手先が冷たくなる、紫色になるなどの症状がみられます。ひどくなると指が壊死(細胞が死んでしまう)することもあります。
動脈硬化があると、指先の血流が低下しやすくなります。
静脈高血圧
静脈の圧が高くなることで、シャントがある腕の一部や全体が腫れる状態です。シャントの狭窄や閉塞があると、身体の中心に返っていく血液が逆流して手先に流れて停滞し、腕の腫れにつながります。
シャントの合併症を防ぐために
シャントの合併症を防ぐには、シャントの観察・確認を行うこと、シャントの扱い方に注意すること、日頃から感染を予防し、体力をつけておくことが大切です。
シャントの観察・確認
シャントに変化があった場合に、できるだけはやく気づいて対処が行えるように毎日シャントの観察・確認を行うことが大切です。いつもとシャントやシャント周辺に異変がある場合は、速やかに主治医に知らせましょう。
早期発見がシャントの合併症を重症化させないことにもつながります。
シャントの観察のポイントは次の通りです。
- ・シャントがある腕の皮膚に変化はないか(赤み、痛み、かゆみ、腫れ、熱感、血管の硬さ、膿の有無など)
- ・脈はいつもと同じように打っているか
- ・シャントの音を聴診器で聴き、ザーザーといつもと同じ音が流れているか(ピーという高い音、音が途切れる、音が弱いなどはないか)
シャントの扱い方
シャントの閉塞や感染などのトラブルを防ぐために以下のことに気をつけましょう。
- ・シャントを圧迫しない。腕時計やゴムなどはシャントの腕にはつけない
- ・シャントの腕で血圧は測らない。血圧測定時はシャントがあることを申告する
- ・シャントの腕で腕枕をしない
- ・シャントの腕にかばんをかけない
- ・透析を行った日には入浴は避ける・入浴する際には防水フイルムなどで針を刺した傷を保護する
- ・透析前にはシャントの腕をきれいに洗って清潔にする(ゴシゴシこすりすぎない、熱いお湯は避ける)
- ・シャントの腕を掻かない
- ・シャントの腕に皮膚のかぶれなどの症状が出たときは受診して処置を受ける
- ・保湿をしてかゆみの予防を行う
- ・シャントに針を刺した後のばんそうこうは翌日に外し、つけっぱなしにしない
- ・爪は短く切り、皮膚を傷つけないようにする
感染防止に努める
日頃から手洗い・うがいに努め、感染の予防を図りましょう。食事、睡眠を十分にとり、習慣的に運動を行い、体力・抵抗力を落とさないようにしましょう。
まとめ
シャントは透析治療になくてはならないものです。透析治療を受けるたびにシャントには針が刺さり、シャント内を一度にたくさんの血液が流れるため、負荷がかかりやすく、傷つきやすくもあります。
そのため、シャントには狭窄、閉塞、感染、シャント瘤、スチール症候群、静脈高血圧などの合併症が起こりやすいという特徴があります。
シャントに起こりうる合併症を知り、日頃からシャントの合併症を防ぐために、シャントの管理と体調管理を図るようにしましょう。
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