腹膜透析とは?メリット・デメリットを知っておこう
腹膜透析は患者本人のお腹の中に透析液を入れ、腹膜を介して血液の浄化を行う透析治療です。血液透析と腹膜透析では透析を行う場所や頻度、体への負担などに違いがあります。腹膜透析のメリットとデメリットを知り、自分や家族が透析治療を選択する際に役立てましょう。
腹膜透析とは
腹膜透析では、お腹の中にカテーテルチューブを通して透析液を入れ、一定の時間置いたままにしたあと透析液を排出し、血液を浄化します。血液の浄化はお腹の中にある腹膜という組織を介して行われます。
腹膜透析の仕組み
お腹の中にある腹膜という組織は胃や腸などの内臓を覆う薄い膜です。腹膜の表面には毛細血管がはりめぐらされており、お腹の中を透析液で満たすと、腹膜の毛細血管を介して血液中の余分な水分や老廃物が透析液へとにじみ出てきます。
余分な水分や老廃物を含む透析液を、カテーテルを通して体の外へと排出することで血液透析を行います。
腹膜透析は毎日透析を行います。朝起きたとき・お昼休憩時・夕方・寝る前といった6~8時間ごとのスケジュールで1日に4回透析液を交換するCAPDと、夜寝ている間に自動腹膜透析装置を使用して透析治療を行うAPDがあります。
CAPDの透析液の入れ替えにかかる時間は30分程度です。APDでは、日中も継続して透析液をお腹の中に入れておく場合もあります。
・全腎協 腎臓病について 腹膜透析の仕組みと種類
・東京都健康長寿医療センター 自宅でできる透析 腹膜透析とは
・腎臓病なんでもサイト NPO法人腎臓サポート協会 腹膜透析(PD)
腹膜透析のメリット・デメリット
腹膜透析と血液透析の特徴を比較して、腹膜透析のメリットとデメリットを確認しましょう。
血液透析 | 腹膜透析 | |
---|---|---|
透析治療を行う場所 | 医療機関 | 自宅や職場 |
透析頻度 | 基本的には週3回 | 毎日 |
透析時間 | 週3回の場合1回4~5時間 |
24時間継続 CAPD: 1日4回、1回30分程度の入れ替え APD:睡眠前後に装置の準備 |
通院頻度 | 週3回 | 月1~2回 |
透析治療の管理 | 医療スタッフ | 本人や家族などの介助者 |
準備のための手術 | バスキュラーアクセス手術 | 腹膜透析カテーテル挿入術 |
透析効率 | 腹膜透析より透析効率が高い | 血液透析より透析効率が低い |
社会生活 | 通院のため制限される | 仕事や家庭生活を維持しやすい |
心臓への負荷 | 腹膜透析より負荷がかかる | 血液透析より負荷が少ない |
食事制限 | 塩分・水分・タンパク質・カリウムの制限 | 塩分・水分・タンパク質の制限 |
体への負担 | 疲れやすい、穿刺の痛みがある | 疲労感が少ない、穿刺がない |
残された腎臓の機能 | 悪化しやすい | 保ちやすい |
継続可能期間 | 継続可能 | 5年程度 |
特有の合併症 | バスキュラーアクセスの感染不均衡症候群 | 腹膜炎、カテーテル感染や閉塞、被嚢性腹膜硬化症、ヘルニア |
腹膜透析のメリット
腹膜透析の一番のメリットは血液透析のように通院してベッド上で長時間過ごさなければならない時間がないため、仕事や生活と両立しやすいという点です。
また、残っている腎臓の老廃物を排出する機能や尿をつくる機能が保たれやすく、生活の質や合併症の発症を抑えられるメリットもあります。血液透析よりも疲労感が少なく、穿刺の痛みもありません。
腹膜透析のデメリット
腹膜透析のデメリットは、除去できる水分や老廃物は血液透析に比べて少なく、腹膜透析によって腹膜が劣化するため、治療期間の寿命がある点です。
自分や介助者が透析液の交換を行うのでカテーテルのケアや透析管理の負担もあります。腹膜炎やカテーテル感染、腹膜の劣化による被嚢性腹膜硬化症などの合併症にも注意が必要です。
腹膜透析の手順
腹膜透析は以下の手順で進めます。
- 腹膜透析カテーテルを挿入する手術のための入院
- 腹膜透析のカテーテルと透析液バックの接続・取り外しやカテーテルの管理の習得
- 退院して腹膜透析の種類(CAPD、APD)に合わせたスケジュールによって、透析液バックの交換やカテーテルの管理を自宅や職場で開始
・CAPDの場合
お腹のカテーテルと透析液バックをつなげて、お腹の中の透析液を空の袋に排出し、透析液バックの透析液1.5~2Lをお腹の中に入れる。これを6~8時間ごとに行う。
・APD
寝る前にカテーテルと透析液バックを装置につなぎ就寝する。朝起きたら装置から外す。CAPDと併用する場合は日中に1回透析バックの交換を追加することもある。 - 月に1~2回受診して透析が適切に行えているかをチェックし、必要に応じて透析スケジュールの変更を行う。
腹膜透析の寿命
腹膜透析はずっと続けられる治療ではなく、5~7年程度が寿命であることが多いです。腹膜透析の合併症のひとつ、被嚢性腹膜硬化症は命にかかわる重篤な病気です。
腹膜透析を長く続けるにつれて発症頻度が増加することがわかっており、8年以上の透析は被嚢性腹膜硬化症のリスクのひとつとされています。1)定期的な腹膜の検査を実施し、被嚢性腹膜硬化症の兆候が見られたら速やかに血液透析への移行が必要です。
腹膜の老廃物や水分を除去する力も長年継続すると低下します。除水や老廃物の除去が十分に行えなくなってきたときも血液透析への移行が必要です。
・1)腹膜透析ガイドライン2019 第五章 被囊性腹膜硬化症回避のための中止条件
・大阪大学腎臓内科ホームページ 腹膜透析とはどのようなものですか?
まとめ
腹膜透析は血液透析に比べて日常生活の制限が少なく、社会生活を継続しやすい透析治療方法です。
しかし、本人や家族が管理を行うため、カテーテルや透析のケアや管理がしっかり行えることが必要です。長年の継続により、腹膜の機能低下や重篤な合併症を引き起こしやすくなるため、一般的には5~7年で血液透析へ移行となります。
腹膜透析を検討する際には現在の生活状況や管理能力などを十分考慮して、医師や家族と相談しましょう。
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