「クレアチニンが低い」と言われた方へ
健康診断や血液検査の結果説明の際に「クレアチニンが低い」と言われたことはありませんか?「高いのではなく低いのであれば問題がないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今後の健康に関わる重要な状態が示されている可能性があります。今回の記事では、「クレアチニン」が何かを知り、クレアチニンが低い場合に考えられる体の状態や対策について、腎機能が低下している状態を踏まえて解説します。
クレアチニンとは?
クレアチニンは、筋肉の中でのエネルギー代謝の過程で自然に生まれる老廃物です。尿素や尿酸のように、体の中にたまると有害になるため、腎臓の糸球体で血液から濾過され、ほとんど再吸収されることなく尿として排出されます。
そのため、クレアチニンは腎機能を推定する指標としても用いられる値です。
ただし、クレアチニンの量は筋肉量に比例して決まるため、筋肉が少ない高齢者や痩せた方、筋肉の病気がある方などでは、腎臓が悪くなくても値が低く出ることがあります。運動の影響を受けやすく、激しい運動後に一時的に数値が変化することもあるため、測定のタイミングにも注意が必要です。
・孫大輔,南学正 BUN,クレアチニンの代謝 BUN,クレアチニン高値を認めたときの鑑別診断の進め方(特集 腎疾患–診断と治療の進歩 ; 診断へのアプローチ) 日本内科学会雑誌 2008;97(5). p.929~933
・一般社団法人 日本健康倶楽部 クレアチニン
クレアチニンが低くなる原因と問題点
クレアチニンは筋肉の代謝によって生じる老廃物であり、その値は筋肉量に比例するため、筋肉量が減少すると、クレアチニンが低い状態となります。
クレアチニン値の低下には、加齢に伴って筋肉量の減少や筋力の低下がみられるサルコペニアも関連しています。サルコペニアの要因として考えられているのは、加齢や運動不足、活動性の低下、低栄養、酸化ストレス、慢性的な炎症です。
サルコペニアが進行すると、転倒リスクが増加し、日常生活動作の低下がみられ、寝たきりになるリスクも高まります。
高齢者でクレアチニンが低い場合、腎機能が保たれているように見えても、実際には筋肉量の減少によってサルコペニアが進行している可能性があります。そのため、クレアチニンが低いときには、ほかの腎機能の指標や全身の筋肉量、栄養状態もあわせて評価することが重要です。
・荒井秀典 サルコペニア 診療ガイドライン 日本内科学会雑誌2020;109 p.2162-2167
食事と運動でできる低いクレアチニン対策
クレアチニンが低い場合にはサルコペニアが関係していることがあります。筋肉量を維持・改善するためには、たんぱく質とエネルギーの十分な摂取、そして適切な運動が欠かせません。
クレアチニンが低い場合の食事対策
慢性腎臓病(CKD)がある場合には、腎機能への負担を考慮し、たんぱく質の摂取量をステージごとに調整する必要があります。日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言ステージ」においては、腎機能の保護を優先する場合とサルコペニア改善を優先する場合で、摂取量の目安が異なります。
以下は、サルコペニアを合併する場合の腎機能の程度に応じたたんぱく質量の目安です。
CKDステージ(腎機能の程度) | 腎機能保護を優先する場合 | サルコペニア改善を優先する場合 |
---|---|---|
G3a(軽度~中等度低下) | ~1.0 g/kg/日 | ~1.3 g/kg/日まで緩和可能 |
G3b(中等度低下) | ~0.8 g/kg/日 | 状況により緩和を検討 |
G4・G5(高度低下~末期) | 0.6~0.8 g/kg/日 | 病態により0.8 g/kg/日まで緩和可能 |
出典:日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言ステージ」より作成
たんぱく質を効率よく活用するためには、1日の摂取量だけでなく朝・昼・夕の食事に均等に配分することも推奨されています。さらに、エネルギー摂取量が不足していると筋肉が分解されやすくなるため、30~35kcal/kg体重/日の十分なエネルギー補給も重要です。1)
クレアチニンが低い場合の運動対策
サルコペニアを合併したCKD患者において有効とされているのは、筋力や筋量の低下を予防するためのレジスタンス運動(筋トレ)を含む運動です。とくにCKDステージG3~G5の場合には、たんぱく質制限を優先する場合でも、筋肉量を維持・向上させるために運動療法の併用が重要とされています。
また、運動療法を単独で行うよりも、食事療法と併用することで除脂肪量や筋力の改善効果が高まりやすくなります。高齢者では特にエネルギー摂取の低下がサルコペニアの進行と関連しているため、運動によるエネルギー消費に見合った十分な栄養管理が重要です。
食事や運動は個々の栄養状態やサルコペニアの状態、腎機能の状態に応じた対応が必要なため、医師、管理栄養士、リハビリテーション専門職などの医療スタッフの指導のもとに実施しましょう。
・日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言ステージ」日腎会誌 2019;61(5): 525‒556.
・1)透析患者の食事療法基準 透析会誌2017;50(2)133~138,
まとめ
クレアチニンが低いときは、腎機能には問題ないというだけでなく、筋肉量の減少や筋力低下が起こるサルコペニアが関連しているかもしれません。特に、腎機能の低下がみられる場合には、腎機能と筋肉量の両立を意識した食事や運動の管理が必要です。個々にあった対策が重要なため、医師や専門職の指導を受けながら、たんぱく質・エネルギーの摂取量の管理や運動療法を実施しましょう。
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