【4ステップで分かる!】人工透析ってどんな治療なの?
ドラマやニュースなどで耳にする「人工透析」。でも透析とはどんなものなのか、実際に治療を受けている人しか知らないことも多いかと思います。
一体どんなことをする治療で、なんのためにするものなのでしょうか。また、家族や知り合いに人工透析を受けている人がいる方も是非人工透析について正しく知り理解しましょう。
1.腎臓と人工透析の関係
人工透析の正式名称は「血液透析療法」。弱ってしまった腎臓の機能を、機械で補助する治療です。
腎臓には、血液を濾過して老廃物を取り去る機能があります。そして、体に必要な成分だけを再吸収し、老廃物と余分な水分は尿として体外に排出されるのです。
また腎臓には、体内の塩分や水分量を調整する機能もあります。実はこのコントロール機能は、血圧と密接に関係しているのです。血圧が高いときには、腎臓は塩分や水分を多く排出して血圧を下げます。逆に血圧が低いときには、塩分や水分をあまり排出せずに血圧を保つように働きます。
腎臓が弱るとどうなるの?
腎臓が弱ってくると、体内の老廃物と必要な成分のより分けができなくなります。その結果、血液中の有害物質が多くなったり、必要な成分が尿と一緒に出されたりしてしまいます。この状態を「尿毒症」といいます。尿毒症になると気力が減退し、食欲不振や不眠といったさまざまな症状が現れます。症状が進むと昏睡状態になってしまうこともあります。
さらに弱った腎臓では、体内の塩分や水分の調整もうまくいかないので、体がむくむようになってしまいます。体内のイオンバランスも崩れて、めまいなどの不調も現れてきます。腎臓は骨を作る機能にも関わっているので、骨がもろくなる「骨粗鬆症」になってしまうこともあります。
腎臓の機能を補うのが人工透析
さまざまな機能をもっている腎臓ですが、弱ってしまう原因もまたさまざま。糖尿病などの生活習慣病が進行して慢性腎不全になることもありますが、大きなケガをしたときに細菌に感染して腎機能が落ちてしまうこともあります。免疫系の異常などで生まれつき腎臓がうまく働かない人もいます。さらに、腎不全になってしまった人の中には、まったく原因が不明というケースもあります。
腎臓の働きが悪くなっても、最初はほとんど自覚症状がありません。むくみやすくなった、疲れやすくなったと感じるくらいです。明確な痛みがあるわけではないので、気付かないうちに進行してしまうことも多いのです。
いったん腎臓が悪くなってしまうと、回復させることが非常に難しいです。殆どの場合はそのまま進行して末期腎不全となってしまいます。そして、一般的に腎臓の機能が通常の10%以下に落ちてしまったときに行う治療が血液透析療法、いわゆる「人工透析」なのです。
2.人工透析ってどんな治療?
腎臓の濾過機能を人工的に補うには、いくつかの方法があります。なかでも代表的なのが、週に3回ほど病院に通って行う血液透析です。人工透析と聞くと、この方法を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
たしかに全透析患者の約8割は、通院での血液透析を行っています。ほかにも血液濾過透析、腹膜透析などがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。なかにはより効果をあげるために、2つ以上の方法を併用している透析患者もいます。
血液透析
血液を体から取り出し、ダイアライザーと呼ばれる半透膜のフィルター越しに透析液と触れさせます。血液は透析液よりも濃いので、その濃度差によって血液中の老廃物が透析液に流れ出します。その後、きれいになった血液は体内に戻されます。
分子の小さい老廃物は効率よく除去できる反面、中分子タンパク質などの除去は効率が下がるという特徴を持っています。基本的には週に3回、1回につき約4時間かけて透析を行います。
腹膜透析
血液透析と同じ原理を、体内で行うのが腹膜透析です。まずは、腹腔と呼ばれる内臓の隙間に透析液を入れます。すると、内臓を覆っている腹膜を通して老廃物が透析液に流れ出してきます。老廃物が十分に流れ出すのを待って、透析液を交換するという方法です。
腹腔内に透析液を入れるため、あらかじめ体にカテーテルを埋め込んでおく必要があります。透析液の交換は1日3~4回程度で、1回につき30分程度の時間がかかります。しかし透析液はパックになっているため、それほどの手間はかかりません。自宅や職場でも透析液の交換ができ、それ以外の時間は普通に日常生活を送れるというメリットがあります。
HDF透析(血液濾過透析)
現在ではほとんど行われていませんが、血液に圧力をかけて老廃物を絞り出す血液濾過(HF)という方法があります。血液透析とは反対に、分子の小さい老廃物の除去効率は低く、中分子タンパク質など分子の大きいの老廃物は除去しやすいという特徴をもっています。
HDF透析は、血液透析と血液濾過のいいとこ取りをした方法と考えると分かりやすいかもしれません。体内から取り出した血液に水分を加えて増量し、ダイアライザーを通して加えた水分と老廃物を一緒に取り去ってしまうという方法です。
HDF透析は、現時点ではもっとも効率のよい透析方法だといっていいでしょう。しかし、専用の機器やフィルターが必要になるといったデメリットもあり、あまり一般化はしていません。また、血液中の必要な物質まで老廃物と一緒に除去されてしまうという欠点もあります。
オーバーナイト透析
通常は1回4時間程度の血液透析を、夜間に7~8時間かけて行うという透析方法です。たとえば月・水・金の週3回の透析では、中2日となる週末は体調が悪くなりがちです。しかし、金曜の夜にオーバーナイト透析を受けることで、老廃物を十分に除去できて快適に過ごせるというメリットがあります。
患者は睡眠中に透析を受けられるので、時間を有効に使えるという利点もあります。反面、万が一異変があっても気づきにくく、誤って透析針を抜いてしまうといった事故が起きることも。また、実施しているクリニックが少なく、都市部以外ではなかなか難しい状態になっています。
在宅透析
自宅に透析機器を設置して、自宅で血液透析を行う方法です。通院よりも頻繁に、長時間かけて十分な透析を行うことができるという特徴があります。
そのため日常生活での食事制限もほとんどなく、合併症のリスクを大幅に引き下げることができます。ただし、機器の設置場所や透析液の保管場所など、自宅にある程度のスペースをとらなければなりません。月に2~3万円の金銭的な負担もかかります。
また、透析を行うには介助者が必要になります。さらに、万が一の事故が起こったときに対応が遅れる可能性があるというデメリットもあります。
3.シャントは透析患者さんの生命線
血液透析療法では、血液をダイアライザーに送るために血管に針を刺して血液を体外循環させる必要があります。しかし、通常の血管では流れる血液の量が少なく、効率よく透析を行うことができません。そのために、血液透析療法を開始する前にシャントを作る手術をします。
シャントとは、動脈と静脈を連絡して静脈を膨らませ、太い針を刺せるようにした血管のことです。シャントは透析患者さんにとって大切な生命線です。
シャントに負担がかかからないよう、強く圧迫しない、袖口のキツイ服を着ない、腕時計をしないなどの注意が必要です。そして、シャントから取り出した血液はダイアライザーに送られ、老廃物や余分な水分を取り除き再び動脈から体内には、多くの血液が流れる「シャント」と呼ばれる部分を作る手術を行います。
シャント手術では、動脈と静脈を連絡して静脈を膨らませ、太い針を刺せるようにします。シャントがなければ透析はできません。つまりシャントは、透析患者にとっては大切な生命線なのです。
日常生活でもシャントに負担がかかからないよう、強く圧迫しない、袖口のキツイ服を着ない、腕時計をしないなどの注意が必要です。しかし血液透析では、体内から血液を抜き出してまた戻すため、透析治療1回につき2ヵ所の穿刺が行われます。週3回の透析治療を受けているなら、1年間で約300回も針を刺すことになります。
そのため、どんなに気をつけて生活していても、シャントはいずれ傷んでくるものなのです。シャントの寿命は一概にはいえませんが、だいたい3~5年と考えられています。シャントが傷んでしまったら、また新たにシャントを作り直す手術を受ける必要があります。
4.人工透析で患者にかかる負担や制限
血液透析にかかる費用は、1回あたり約3万円といわれています。週3回行うとすると1年間では約150回となり、患者1人あたり年間約470万円の医療費がかかることになります。もちろん人工透析は保険内診療なので、患者の金銭的な負担はかなり抑えられますが、少なくなっても毎月治療費がかかることは患者にとって大きな負担になります。
透析患者の金銭的な負担を減らすため、人工透析治療にはさまざまな公的補助制度が用意されています。人工透析を受けている場合は、住んでいる自治体に申請すると第1級の障害者認定が受けられます。
すると、患者の収入や年齢にもよりますが、医療費が免除されるようになります。ほかにも「特定疾病の医療費助成制度」や「障害者自立支援医療制度」といった制度もあります。
人工透析治療にかかる時間・期間
血液透析は1回の治療に4~5時間かかります。その間、患者さんは動き回ることができません。その治療を週3回行わなければいけないのですから、仕事や学業との両立が難しくなります。
また透析治療は、あくまでも腎臓の機能を補う方法です。弱ってしまった腎臓の機能を改善させるものではありません。ほとんどの透析患者は、いったん透析治療を始めたら一生受け続けなければならないのです。
透析治療での食事制限・水分制限
人工透析治療は、本来24時間365日休まず働いている腎臓の機能を、機械で代行するものです。効率よく人工透析を行うためには、血液中の老廃物をなるべく少なくしておかなければなりません。そのため厳格な食事制限が必要になります。
人工透析の食事制限の基本は、タンパク質の摂取量を守ることです。タンパク質が分解されると、尿酸・尿素・アンモニアといった窒素化合物が出ます。この量が多すぎると、透析では十分に取り去ることができません。また、カリウムやリンといったミネラルを取り過ぎると、合併症を引き起こす危険があります。カリウムやリンを多く含む食品は、なるべく避ける必要があります。
透析患者は、水分の摂取にも気をつける必要があります。腎臓の機能が衰えると尿が出にくくなるため、人工透析では不要な水分も排出します。しかし、一度にたくさんの水分を排出すると心臓に負担がかかり、血圧低下や意識混濁といった症状を引き起こすことがあります。
透析患者の旅行・出張
週3回の人工透析を受けていると、長期に自宅を離れる旅行や出張は難しいと考えがちです。しかし、決して不可能ではありません。透析を行っているクリニックの中には、1回限りの臨時透析を受け付けているところもたくさんあります。旅行先にそういったクリニックがあれば、旅行中に透析治療を受けることができます。
ただし、旅先での透析治療にはさまざまな準備が必要です。少なくとも1ヶ月前までには予定を決めて、臨時透析を受け入れているクリニックに依頼する必要があります。同時に、かかりつけ医師に紹介状を書いてもらい、人工透析治療に必要な検査データなどを旅先のクリニックに送っておきます。そういった準備にかかる手間を考えて、旅行などを諦めてしまう透析患者も少なくありません。
まとめ
人工透析は、患者さんにとっては絶対に欠かせないものですが、さまざまな負担を伴う治療でもあります。しかし、周囲の理解があれば、透析を受けながら仕事をしたり学校に通ったりすることもできます。
日本透析医学会が発表した2015年末のデータでは、日本には約32万人もの透析患者がいます。多くの人が人工透析治療についての理解を深めることで、透析患者や周囲の方々のストレスを軽減することができるのではないでしょうか。
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