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2021年11月02日

透析治療で用いるヘパリンの投与量と注意点

透析治療では、血液を固まりにくくする作用のある抗凝固剤が用いられます。抗凝固剤としてはヘパリンが一般的で、透析治療を受けている多くの人に使われている薬です。抗凝固剤のヘパリンについて詳しく知り、ヘパリン投与後に注意しなければならない点について理解を深めましょう。

 

ヘパリンとは

ヘパリンは、ムコ多糖類の一種です。ヘパリンは、血液中のアンチトロンビンというたんぱく質と結合することで、血が固まる作用のあるトロンビンとXa因子のはたらきを抑えるはたらきを持ち、血液が固まるのを防ぐ薬(抗凝固剤)として用いられています。

ヘパリンは、血液本来の固まる性質を低下させ、出血しやすくなる特徴があります。

・公益社団法人 日本薬学会 薬学用語解説 ヘパリン
・公益社団法人 日本薬学会 薬学用語解説 アンチトロンビン

血液

なぜ、透析治療でヘパリンを使うのか?

除水で取り除く水の量(除水量)は、適切な量である必要があります。

透析治療では体からとり出した血液を透析器に通し、再び体へと返す必要がありますが、血液は体の外に出ると固まってしまう性質があります。

体の外にとり出した血液が固まると透析治療が続けられないため、血液が固まらないように抗凝固剤のヘパリンがよく使われています。

ヘパリンの投与量とガイドライン

ヘパリン投与時には、透析を行う前に個々の患者さんに適したヘパリンの投与量を算出して投与されます。ヘパリンを投与する方法には「全身ヘパリン化法」と「局所ヘパリン化法」があります。

全身ヘパリン化法

一般的に用いられているのは全身ヘパリン化法です。透析治療を開始する前に1,000~3,000単位を投与して、透析を開始してから持続的に1時間あたり500~1,500単位を投与、または間欠的に500~1,500単位を追加します。

全身ヘパリン化法では、体内の血液にもヘパリンの血を固まりにくくする作用が及びます。適応となるのは、状態が安定していて出血傾向のない透析患者さんです。

局所ヘパリン化法

局所ヘパリン化法は、体外に血液をとり出す動脈側からヘパリンを注入します。そして、体内に血液が戻る前にヘパリンを中和するための薬剤を静脈側に注入して、透析回路を通る血液のみにヘパリンを加える方法です。

局所ヘパリン化法は、出血傾向のある患者さんに用いられます。

・透析用ヘパリンナトリウム液
・大臨技ニュース 第163号 Q&A  P3

ヘパリンと低分子ヘパリンの違い

血液透析に使用される抗凝固剤にはヘパリンのほかにも、低分子ヘパリンと呼ばれる分子の小さいヘパリンもあります。

ヘパリンが血液本来の固まる性質を低下させるのに対し、低分子ヘパリンは血液本来の固まる性質の低下をきたさずに血液を固まりにくくする作用を発揮します。そのため、出血傾向を促さずに血液を固まりにくくする特徴があります。

低分子ヘパリンは軽度の出血傾向がみられる患者さんに用いられます。

ヘパリン 低分子ヘパリン
作用 アンチトロンビンとトロンビンの両方に結合して、Xa因子、トロンビンの作用を抑える アンチトロンビンのみに結合して、主にXa因子の作用を抑える
半減期 0.5~1.5 時間 1.5 時間
特徴 透析治療の抗凝固剤として一般的に用いられている。
血液本来の血を固まりにくくする作用を高め、出血傾向を促す。
出血傾向を促さずに、血液を固まりにくくする作用を発揮する。
ヘパリンの半分の投与量で透析可。
適応 出血傾向のない透析患者 軽度の出血傾向のある透析患者

さらに出血しやすい患者さんには用いられるのは、薬の半減期が5~8分と非常に短く、出血傾向を強めないメシル酸ナファモスタットです。

・低分子ヘパリンと産科のDICの最近の考え方
・大臨技ニュース 第163号 Q&A  P3
・武田病院グループ そらまめ通信 抗凝固剤について P3
・千葉大学大学院医学研究院・医学部 透析条件の管理 抗凝固薬の使い方 P18
・Q6.透析中に使用する抗凝固剤(ヘパリン)について教えてください。

ヘパリン投与後の注意点

ヘパリンは血液本来が持つ血液を固まらせる性質を低下するため、投与後は血が止まりにくくなるリスクがあります。

そのため、体内の血液にもヘパリンの作用が及ぶ全身ヘパリン化法での透析後は、以下のことに注意が必要です。

  • ・出血の伴う歯科の抜歯治療は避ける。(透析翌日に行うのが望ましい)
  • ・出血や内出血を起こす可能性のある怪我や打撲がないように注意する。
  • ・怪我をして血が止まらない場合は透析を受けている施設に速やかに連絡する。
  • ・眼底出⾎などを起こした際は速やかに医師の指⽰を受ける

怪我や病気で出血傾向がみられる場合や、転倒のリスクが高く、内出血を起こす可能性がある場合には、ヘパリン以外の薬が選択されます。

・大臨技ニュース 第163号 Q&A  P3
・大分大学医学部附属病院歯科口腔外科 慢性腎臓病患者と透析患者に対する歯科治療の注意点 3.透析患者の歯科治療P13-14

出血

まとめ

透析治療では多くの人に抗凝固剤のヘパリンが使われています。ヘパリンの投与量は個々の患者さんの状態によって算出され、出血傾向の有無により全身ヘパリン化法、または局所ヘパリン化法が選択されます。患者さんの出血傾向の程度や手術を受ける場合などにはヘパリン以外の抗凝固剤が選択されるケースもあります。

ヘパリン投与後は血が止まりにくい状態にあるため、抜歯の予定や怪我や打撲のリスクがある場合には、あらかじめ主治医と医療スタッフに伝えておきましょう。


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