年間600万円!?人工透析の医療費と必ず知っておきたい医療費助成制度
人工透析は、非常に高額な医療費がかかる治療です。しかもほとんどの透析患者は、人工透析治療と一生つきあっていかなければなりません。そのため、トータルの医療費も膨大なものになってしまいます。
いったいどのくらいの医療費がかかっているのでしょうか?そして実際に患者が負担しなければならない金額はどのくらいなのでしょうか? 今回は、透析治療にかかる医療費にクローズアップしてみましょう。
統計以降、透析患者数は増え続けている
日本透析医学会では毎年「わが国の慢性透析療法の現況」という統計調査を行っています。2015年末のデータで見ると、国内の透析患者数は32万4,986人。前年より4,538人も増加しています。
2014年の日本の総人口は約1億2,700万人ですから約0.25%。ほぼ400人に1人が透析治療を受けていることになります。
透析患者についての統計を取り始めたのは1968年のことで、当時の患者数はたった215人でした。それから今日に至るまで患者数は年々増え続けています。
原因となる疾患で最も多いのは糖尿病腎症で、全透析患者数の38.4%に当たります。次が慢性糸球体腎炎の29.89%、その次が腎硬化症の9.5%です。
全患者数に占める糖尿病腎炎の患者数の割合は年々減少していますが、糖尿病腎症の割合は増加の一途を辿っています。このことからも、糖尿病患者の増加が人工透析患者の増加に大きく関わっていることが分かるでしょう。
透析患者の「増加率」は減っている?
透析患者数はこのまま増加を続けていくのでしょうか。実は、そうとも言い切れないという推察もされています。
2013年の透析患者数は31万4,438人、2014年は32万448人でした。つまり2014年の増加患者数は6,010人となります。2015年は4,538人の増加ですから、増加患者数は減ってきているのです。
2004年までは年間1万人ベースで増加してきていたのが2005年には1万人を切り、ここ10年の増加患者数は年々減っています。このペースでいくと2017年から2020年には全透析患者数もピークを迎え、その後は減少に転じるのではという推計もされています。
人工透析にかかる医療費は年間400~600万円
血液透析の医療費
人工透析には、病院で行う血液透析と、自宅でできる腹膜透析があります。一般的なのは、週に3回通院して行う血液透析で、費用は1回あたり約3万円と言われています。
人工透析は保険内診療なので、診察料や人工腎臓の使用料は保険点数で全国一律に定められています。だとしたら「人工透析治療の定価はいくら」といった形で明示できそうですね。
しかし、血液を濾過するダイアライザー膜は、そのタイプや面積によって価格が違ってきます。また、血液の抗凝固剤などの量も患者によって違います。そのため医療費を概算でしか出せないのです。
血液透析を週3回行うと、1ヶ月に12~13回受けることになります。すると1ヶ月にかかる人工透析の医療費は36~40万円。1年は52週間ですから、年間で患者1人あたり約470万円の医療費がかかることになります。
腹膜透析の医療費
もうひとつの人工透析法、腹膜透析は体内の腹膜を使って老廃物を濾過する方法です。
腹膜は胃や腸といった内臓の表面を覆っている膜のこと。内臓の隙間となっている腹腔に透析液を入れておくと、腹膜を通して血液中の老廃物が透析液のほうに浸みだしてきます。老廃物が十分に浸みだしたら、老廃物の混ざった透析液を取り出して新しいものと入れ替えるという透析方法です。
腹膜透析は透析液を1日に3~5回交換する必要があります。ですが自宅で交換できるため、血液透析のように頻繁に通院する必要はありません。
だったら血液透析よりも医療費が抑えられるのでは、と考える人もいるかもしれません。しかし、透析液の交換に使うバッグやカテーテルなどの費用がかかるため、1ヶ月に30~50万円の医療費が必要になります。
人工透析にかかる諸費用
人工透析治療にかかる医療費は、透析費用だけではありません。
透析が適切に行われているかをチェックするため、血液検査は欠かせません。また人工透析では感染症や合併症の危険もあるので、定期的に検査を行います。原因となった疾患によっては、人工透析以外の治療も同時に行う必要があります。
そういった費用まですべて含めると、人工透析治療にかかる医療費は少なく見積もっても年間400万円。人によっては年間600万円程度にまで膨れあがってしまいます。
透析治療にかかる初期費用は?
腎臓の状態が悪くなって人工透析を受けることになったとしても、「今からやりましょう」ですぐに治療を始められるわけではありません。さまざまな準備が必要になります。
血液透析では1分間に約200mlの血液を透析器に送り込み、老廃物を取り去ってまた体内に戻さなければいけません。しかし、通常の血管ではそれだけの血流量を確保できないのです。
シャントの手術費
そのため血液透析を始める前にはあらかじめ、腕の動脈と静脈をつなぎ合わせて血流量の多い部分を作る手術を行います。この手術でつなぎ合わせた部分を、シャントと呼びます。
自分の動脈と静脈を直接つなげる自己血管シャントなら、1時間程度で済むので日帰り手術も可能です。しかし糖尿病などの疾患がある場合や高齢の方は、経過に注意が必要なので入院手術となります。
動脈と静脈を人工血管でつなぐシャントの場合も、入院手術となります。当然のことながら、日帰り手術よりも入院手術のほうが医療費がかかります。
シャント手術も保険内診療なので、医療費に対する自己負担は3割です。日帰りシャント手術なら自己負担は5~6万円。入院手術は入院日数にもよりますが、10万円前後と考えておけばいいでしょう。
血液透析導入入院も必要
初めて血液透析を行う場合、不均衡症候群を起こすことがあります。透析治療によって血液が急速に濾過される状態に体が対応できず、頭痛・吐き気・倦怠感といった症状が現れることです。場合によっては意識混濁といった危険な状態に陥ることもあります。
また透析治療で急激に血液量が減ると、心臓や血管がうまく対応できず低血圧になることがあります。頭痛・吐き気・あくび・動悸・冷や汗などの症状が現れます。低血圧の状態が続くと、透析治療自体も困難になってしまいます。
こういった緊急の事態に備えるため、初回の血液透析は入院して行うのが一般的になっています。これが血液透析導入入院です。
すでにシャント手術も済んでいる場合、入院期間は1~2週間程度です。病状の急変などで緊急に人工透析が必要になり、シャント手術と同時に行う場合は3週間~1ヶ月程度の入院となります。
入院費用としては、2週間程度で約20万円程度と考えておけばいいでしょう。つまり、人工透析治療には初期費用として15~30万円ほどかかることになります。
患者負担を大幅に軽減する医療費助成制度
血液透析か腹膜透析かにかかわらず、人工透析には膨大な医療費がかかります。保険診療で自己負担額は3割としても、月に10万円以上の出費です。これでは一部の高額所得者しか治療を受けられなくなってしまいます。
そういった状況をなくすため、人工透析にはさまざまな公的補助制度が用意されています。
特定疾病の医療費助成制度
長期にわたって高額な治療費が必要となる疾病として、厚生労働大臣が定めたものを「特定疾病」といいます。現在は3つの病気が指定されていて、「人工透析を行っている慢性腎不全」もそのひとつとなっています。
特定疾病の患者は、加入している健康保険に申請すると「特定疾病療養受療証」という証明書の交付が受けられます。この特定疾病療養受療証を提示すれば、病院で支払う金額は最大で1ヶ月1万円になります。
ただし、所得額によっては上限が2万円となることもあります。また、人工透析を受けるようになってからでないと申請できないので、事前準備のためのシャント手術には適用されません。
障害者医療費助成制度
人工透析を受けるようになった患者は、住んでいる自治体に申請すれば障害者手帳の交付が受けられます。人工透析患者の場合は、自動的に第1級障害に認定されます。
第1級障害に認定されると、ほとんどの場合は医療費がすべて無料となります。これは、人工透析にかかる医療費に限りません。病院から発行された処方箋で処方された薬も無料となります。
ただし、地方自治体によっては医療費の助成に所得制限や年齢制限がある場合も。入院した際の差額ベッド代や食事代についても、助成対象かどうかは自治体によって異なります。詳しくはお住まいの地方自治体に問い合わせてみましょう。
障害者手帳についても人工透析患者になってからでないと申請できないので、シャント手術には医療費控除は適用されません。
障害者自立支援医療制度
地方自治体の障害者医療費助成制度が受けられなかった場合でも、国の障害者自立支援医療制度があります。障害者の負担を軽減させるために作られた制度で、医療費の自己負担分を国が助成するという制度です。
患者の自己負担分は原則として医療費の1割で、低所得者に対する減免措置もあります。また人工透析患者の場合は、長期の治療が必要な特定疾病としてさらに自己負担額が軽減されます。
ただし、この制度を利用するには、身体障害者手帳の交付を受けていることが前提です。また助成を受けられるのは、自立支援医療機関の指定を受けた医療機関での治療に限られます。
小児慢性特定疾患治療研究事業
18歳未満の透析患者の場合は、自己負担額が最大で1万円になる助成制度です。対象は18歳未満となっていますが、18歳以降も引き続き治療が必要であると認められた場合は、20歳未満まで助成期間が延長できます。
所得税の医療費控除
所得税の確定申告にも、医療費控除があります。1月から12月の12 ヶ月間に、本人や同居の家族が支払った医療費が10万円以上になったとします。その場合は確定申告をすれば、超過した分が還付金として戻ってきます。
また、10万円分の医療費についても控除対象になるので、その分の所得税はかかりません。
まとめ
国内で人工透析を受けている患者の数は32万4,986人です。1人あたり年間400万円としても、総医療費は約1兆3,000億円にものぼります。厚生労働省の発表によると、2015年度の総医療費は41.5兆円でした。そのうち人工透析治療が占める割合は、決して少なくありません。
透析患者自身は、様々な制度で医療費の助成が受けられます。だからといって、身体的・精神的負担がなくなるわけではありません。1回に約4時間の透析を週に3回受けなければならないのは、日常生活にも大きな制約となります。
生活習慣から発症した糖尿病の場合は、節制すれば腎臓の機能低下を防ぐこともできます。食事療法や運動療法の習慣をつけて、できる限り人工透析まで至らないようにしたいものです。
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