フェリチン値の基準値と透析患者さんの傾向とは
「フェリチン」という成分を聞いたことがありますか?なかなか聞きなれない名前ですよね。フェリチンは身体の中の鉄と関連の深い成分です。
貧血を合併しやすい透析患者さんでは、検査で調べることもあるでしょう。検査では血清フェリチン値として示されています。
血清フェリチン値の基準値や低値・高値であるとどのような影響があるのかについてみていきましょう。
フェリチンとは
フェリチンとは肝臓や脾臓を中心に、全身に存在しているたんぱく質の一種です。鉄を貯めておくはたらきがあり、検査では血清フェリチンとして身体の中の量を測ることができます。
身体の中に蓄えられている鉄(貯蔵鉄)の量と血清フェリチン値には関連があり、貯められている鉄8mgが、血清フェリチン値1ng/mlに相当すると言われています。
身体が鉄不足になると、蓄えられている鉄から使われるため、血清鉄の値よりも先に、血清フェリチン値が低くなります。
そのため、血清鉄の値が変わらなくても血清フェリチン値が低くなっていれば、将来的に鉄欠乏性貧血になることが予測されます。その特徴を活用した早期の貧血検査として、血清フェリチン値を調べる検査が行われています。
参考文献:公益社団法人福岡県薬剤師会 質疑応答
フェリチンの基準値
血清フェリチンの基準値は、早期の貧血を発見する目安として12~249.9ng/mlが基準の範囲とされています。測定方法によって、基準値として示されている値はさまざまであり、一例をあげると男性:20~250ng/ml、女性:10~80ng/mlと示されています。
一般的には男性の方が低値から高値まで幅広い値を示し、女性は低値で範囲が狭くなっています。閉経後の女性は男性の値寄りとなり、高値傾向となります。
血清フェリチンの低値と高値
血清フェリチン値が低く、体内の貯蔵鉄が少なくなっている(将来貧血となる可能性が高い)とされる値は、12ng/ml未満です。
反対に血清フェリチン値が高いと判断されるのは、250ng/ml以上です。血清フェリチン値が高いと、体内の貯蔵鉄が多くなりすぎている、もしくは、肝障害、感染症、悪性腫瘍、心筋梗塞などの病気が疑われます。肝障害や感染症などを患っている場合は、貧血傾向があっても血清フェリチン値が高くなります。
参考文献:一般社団法人 新潟県労働衛生医学協会 血清フェリチン検査
透析患者さんのフェリチン値の傾向
透析患者さんは透析や腎不全の影響から慢性炎症を起こしやすく、血清フェリチン値が高い傾向にあります。
鉄欠乏の指標としての血清フェリチン
透析患者さんはエリスロポエチンの不足や鉄の不足により、腎性貧血や鉄欠乏性貧血がみられます。腎性貧血は鉄が不足することで悪化し、鉄が不足しているかどうかの指標に、血清フェリチン値が用いられます。
健康な方に比べて血清フェリチンが高い傾向にある透析患者さんは100ng/mlより低い値だと鉄欠乏で治療が必要とされています。
ただし、血清フェリチン値が高くて貯蔵鉄がたくさんあるのに、骨髄で鉄がうまく利用されない鉄利用障害による貧血が起こっている場合もあるので、血清フェリチン値が高くても貧血のこともあります。
血清フェリチンは低すぎても高すぎてもよくない
鉄は少なすぎても良くありませんが、たくさんありすぎてもよくありません。血清フェリチン値が250 ng/ml以上の透析患者さんでは死亡リスクが高くなるという報告もあります。
さらに、血清フェリチン値が高くなると心血管疾患による死亡リスクも高くなることが言われています。
参考文献:庄司哲雄ほか 腎性貧血治療における鉄投与の考え方 【血清フェリチン値とトランスフェリン飽和度を指標として投与量を判断】
まとめ
鉄を貯めるはたらきのあるフェリチンは、貧血だと最初に使われて少なくなるので、早期の貧血をみつける指標として血清フェリチン値が使われます。透析患者さんは慢性炎症などの影響で、健康な方よりも血清フェリチン値が高い傾向にあります。
腎性貧血や鉄欠乏性貧血を起こしやすい透析患者さんでは、フェリチンが少なくなり過ぎても貧血が悪くなりますし、フェリチンがあり過ぎても死亡リスクが高まります。血清フェリチン値が低値や高値の時に示す影響を知っておきましょう。
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