脱血不良!?透析中のトラブル対処法と原因を知っておこう
透析治療は腎臓の働きが悪くなってしまった患者にとって、命綱ともいえる治療です。そこにトラブルが起きると、効率のいい透析治療ができなくなってしまいます。
トラブルが起こってしまったときに慌てないですむよう、「脱血不良」をはじめとする透析トラブルの種類や原因、対処法をあらかじめ知っておきましょう。
透析中の代表的なトラブル「脱血不良」とは?
血液透析治療は体内から血液を抜き出して透析装置で浄化します。1回4時間程度の透析治療で全身の血液を浄化するためには、かなりのスピードで血液を抜き出さなければなりません。
しかし、何らかの原因で血液を抜き出すペースが遅くなったり、血液がまったく抜き出せなくなったりすることがあります。これが「脱血不良」と呼ばれるトラブルです。
透析治療時に体内から血液を抜き出す脱血のスピードは、患者によって異なります。多くは1分間に200~250mlのペースで脱血しますが、体質や体格によって150~400mlとかなり幅広くなっています。
そのため、「このペース以下なら脱血不良」といったような、明確な基準はありません。ただし、1分間に100mlを下回るようだと透析治療に支障が出てきます。
脱血不良の原因は様々ですが、大きく2つに分けられます。1つはシャント側の問題。もう1つは血管に針を刺す際の穿刺ミスです。
脱血不良の原因「シャントトラブル」
脱血不良の原因として、まず疑われるのがシャントのトラブルです。1分間に200mlのペースで脱血するためには、シャントに少なくとも350mlの血液が流れていなければなりません。それを下回ると、脱血不良になってしまいます。
シャントは大変デリケートな部分です。重いものを持ったり外から圧力をかけたりすると、シャントに血液が流れにくくなったり詰まったりすることがあります。また、シャントには大量の血液が流れ込むので、血管壁が傷ついて厚みが増してしまうことがあります。その結果、シャントの狭窄や閉塞が起きて、脱血不良に繋がってしまうのです。
シャントの狭窄で脱血不良が起きた場合、穿刺位置を血管の細くなっている部分から離すことで改善できます。また、腕に駆血帯を巻いてシャントの血流量を上げることでも対応できます。しかし、いずれも一時的な対応策に過ぎません。シャントの狭窄や閉塞があった場合は、すぐに治療する必要があります。
脱血不良の原因「穿刺ミス」
十分な脱血量を確保するためには、穿刺針がシャントの血管に入っている必要があります。そのため穿刺の際には、きちんと脱血できるかを確認してから透析治療を始めます。針がまったく血管に入っていない場合は、まったく脱血できないのですぐに気づきます。
しかし、穿刺針が血管を貫通していたり、針の先端しか入っていなかったりすると、脱血できてしまうこともあります。いずれも気づいた時点で、穿刺をし直せば脱血不良は改善できます。
穿刺針がきちんと血管の中に入っていても、何かの拍子に穿刺針の先が血管壁に当たってしまい脱血不良になることがあります。これは、血管が蛇行している・血管の一部に瘤ができている・血管が狭窄しているといったことがあると起こりやすくなります。この場合、穿刺針の位置を調整したり、穿刺をし直したりすることで対応します。
脱血不良が起きた時には、どう対応するの?
血液は通常、血管内を流れている時には固まることはありません。しかし、血液を体外に取り出すと、凝固因子が働いて固まってしまいます。もちろん血液透析を行う際には、凝固因子を働かせないようにしています。でも、透析器の中を流れる血液が完全に止まってしまうと、凝固を防ぐことはできません。
脱血不良でも1分間に50ml程度の血流量がある場合は、透析を続けながら対応します。脱血量がそれ以下になると、透析を続けることはできません。血液の通る回路を穿刺針からいったん切り離して、対応することになります。
脱血不良の正しい見分け方
透析治療はまず、きちんと脱血できるかを確認してから始められます。でも透析治療中に突然、脱血不良になってしまうことも。ところがほとんどの場合、脱血不良になっても痛みや吐き気といった分かりやすい兆候はありません。脱血不良を見分けるには、いくつかのポイントがあります。ここではその見分け方を紹介しましょう。
静脈圧が下がってくる
静脈圧とは、透析器内の静脈回路を流れる血液の圧力のこと。透析をしていると血液から水分が除去されるので、次第に血液の粘度が増して静脈圧は上がってきます。それなのに静脈圧が下がってくる場合は、脱血不良の疑いが。そのため静脈圧が下がってくると、透析器の警報が鳴るようになっています。
ピローのへこみ
穿刺針と血液ポンプの間に、「ピロー」と呼ばれる少し膨らんだ部分があります。ピローがしっかり膨らんでいるのは、あらかじめ設定した量の脱血ができている証拠です。反対に、へこみができていると脱血不良が疑われます。ただし、ピローのついていない回路を使っているクリニックもあります。
抗凝固剤のシリンジに血液が流れこんでいる
透析治療の際には血液が固まらないよう、血液に抗凝固剤を混ぜてから透析器を通します。抗凝固剤のシリンジは透析器の手前に取り付けられているので、透析治療中も見ることができるでしょう。
脱血不良になると回路内を流れる血液の圧力が下がるので、シリンジの抗凝固剤が引っ張られて回路に流れ込みます。そして脱血不良が改善すると、今度は血液がシリンジ内に流れ込むこととなります。抗凝固剤のシリンジに血液が混じっていたら、脱血不良が起こっている可能性があります。
動脈回路に気泡ができている
脱血不良になると、脱血する側の動脈回路や血液ポンプに気泡が発生します。また、血液ポンプから透析器までの回路がヒクヒクとうねる場合もあります。こうした現象が見られたら、脱血不良の疑いがあります。
静脈回路の流れが断続的になっている
透析器から体内に血液を戻す静脈回路は、つねにスムーズに血液が流れるようになっています。これがもし断続的になっている場合には、脱血不良が疑われます。
毎日のシャントのチェックも大切
脱血不良の大きな原因となるシャントトラブル。普段からまめにシャントのチェックをしておくことで、突然の脱血不良を予防することができます。
- ・シャントからすきま風のような音がする
- ・シャント音がまったく聞こえない
- ・シャントを触っても、皮膚が振動してざわざわする感じ(スリル)がしない
- ・シャントのつなぎ目がドキドキする
- ・シャントがある側の腕に腫れや痛みがある
- ・シャント部分が固くなっている
こうした症状があった場合は、シャントの狭窄や閉塞が疑われます。すぐに医師の診察を受けましょう。
シャント狭窄の治療法PTA
シャントの狭窄(きょうさく)で脱血不良になってしまっても、早期なら狭窄部を広げる治療ができます。それがPTA(Percutaneous Transluminal Angioplasty)と呼ばれる治療で、日本語で言うと「経皮経管的血管形成術」となります。
PTAは、血管内に小さなバルーンを取り付けたカテーテルを挿入する治療法です。狭窄部でバルーンを膨らませて血管を押し広げます。治療にかかる時間は30分から1時間程度。日帰りでのPTAを行っているクリニックもあります。
PTA治療は狭窄部の特定から
PTAを行う場合はまず、血管に造影剤を注入して狭窄している部分を特定します。血管に造影剤を入れると身体が熱く感じることがありますが、すぐに戻るので心配はいりません。また、局部麻酔や安定剤の投与を行ってから施術するので、痛みもほとんど感なじません。
血管を膨らませるバルーンの大きさは、長さが2~4cm、直径は4~7㎜程度。このバルーンを狭窄部で1~2分間膨らませては萎ませる作業を2~3回繰り返します。最後に血管が広がったことを確認して、バルーンを抜き取って終了となります。
PTA治療では、まれに血管の一部が裂けてしまうことがあります。しかし、傷ができてもごくわずかなことがほとんどなので、皮膚の上から押さえておくことで止血できます。
PTA治療をしても、また狭窄してしまう場合
PTA治療で血管を広げても、半年程度でまた狭窄が起きてしまうこともあります。その原因はまだはっきりとは分かっていません。広げたときに血管が痛んでしまい、その結果として管壁が厚くなってしまうのではと考えられています。
PTA治療は何度でも行うことができるので、再発した場合にはまたPTA治療を行います。しかし、あまり頻繁に繰り返すようなら、別の治療や外科手術を行うこともあります。
PTA以外の狭窄の治療法として考えられるのはステントの挿入です。ステントは、網目状になった短いストローのようなもの。それを狭窄部に入れておくことで、血管を押し広げた状態を保ちます。
ただ、ステントを入れた部分には穿刺をすることができません。そのため、血管狭窄が起こった場合の第一の治療としては、やはりPTAということになります。
その他の透析トラブルと治療法
静脈圧が低下したときには脱血不良の可能性があるといいましたが、他のトラブルで静脈圧が低下することもあります。
穿刺した針が抜けてしまったり、血液が固まって流れが悪くなったときです。逆に、静脈圧が高くなるトラブルもあります。体内に血液を戻す回路が詰まったり、患者が激しく動いたりしたときです。
いずれのトラブルでも、まずは血液の通る回路に異常がないかをチェックします。詰まりなどがあった場合には、回路の交換などで対応します。
意外に多い「血液の再循環」
血液の再循環とは、老廃物を取り去って体内に戻した血液が、またすぐに脱血されて透析器に入ってしまうことです。再循環する血液の割合が高いと、効率のいい透析治療ができません。
透析治療の際には、血液が安定して流れるように血液ポンプで吸引しています。そのため、脱血と返血の針を刺した場所が近すぎると、再循環が起こってしまうことがあります。
また、血流量が少ない患者の場合、脱血量を多く設定しすぎると再循環が起こってしまいます。シャントに狭窄がある場合も、再循環を起こしやすくなります。
透析機器には様々なメーターがついているので、それをよく観察することで再循環を発見できます。透析の効率が悪くなるほどの再循環があった場合は、穿刺する位置を変えたり機器の調整を行ったりして対応します。
まとめ法
様々な透析治療のトラブルや対処法を紹介してきましたが、いずれも医師や看護師が十分注意を払っていれば防げるトラブルといえます。
しかし、どんな治療でも、医師と患者が協力しなければ最大限の効果を上げることはできません。また、治療中に激しく動いてしまうといった、患者側が原因となるトラブルもあります。
透析治療は、腎臓がうまく働かなくなった患者の命を繋ぐものです。医師や機械任せにせず、正しい知識を身につけることでより治療効果を上げられることも。そして、不調や変化を感じたらすぐに医師に相談できるようにして、透析治療と上手に付き合っていきたいものです。
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