どちらを選ぶ?血液透析と腹膜透析の違いを理解しよう
糖尿病腎症の治療は、厳格な血糖値のコントロールと腎症・糖尿病の食事療法を基本に行いますが、症状が進行して腎不全になってしまう患者さんが多くいるのが現実です。
しかし、人工腎臓の技術の進歩により、命を落とす危険があった尿毒症になっても、人工透析と自己管理をしっかり行っていれば、以前とほぼ変わらない生活を過ごすことができるようになりました。
今回は、「血液透析」と「腹膜透析」2種類の人口透析の違いを解説します。
透析療法とは
糖尿病腎症が進行して腎臓の働きが正常の10%以下になると、排泄されない老廃物や毒素が血液中にたまって尿毒症となり、放置しておくと死に至ります。
腎臓が働かないと、身体から老廃物を排出することや、体液の状態を保つことができなくなります。このように十分に働けなくなった腎臓の状態を「腎不全」といいます。
腎不全になった場合、人工透析を行って血液中の老廃物や毒素などを取り除かなければなりませんが、機能を失った腎臓の働きを助けるのが透析療法というわけです。
現在の主流は「血液透析」
血液透析(HD)は透析患者の多くが行っている治療法です。体内にたまった老廃物を、1回4~5時間かけて除去して血液をきれいにします。
ベッドに寝ている患者の腕の動脈側と血液を体外に出し、ダイアライザー(人工腎臓)という体の外にある機器を通して血液の老廃物を取り除き、体液量やPH、電解質のバランスを調整して再び体内に戻します。
血液透析の準備はシャント作りから
血液透析を始めるには、バスキュラーアクセスという動脈をつなぎ合わせて、血液の取り出し口(シャント)を作る手術を行います。通常、局所麻酔で利き手と反対側の腕に行います。
この手術をしてから数週間で透析療法を始めることが可能になります。また、シャントは皮膚の下に作るので、手術跡が目立たたなくなれば外見からはあまり分からなくなります。
シャントは一度作れば数年から十年以上使用することができます。変形するなどして、治療に支障が出た場合、再度手術を行います。
腎臓の症状に応じて、1から2日おきに、1回約4時間かけて行います。透析中はベッドに横になり、動き回ることはできません。また、頻繁に病院(透析施設)に行くことになりますので、通いやすさを考慮する必要があります。昼間働いている人のために夜間透析を行っている透析クリニックも増えています。
在宅で治療できる「腹膜透析」
腹膜透析(Peritoneal Dialysis)は、朝鮮戦争(1950年~1953年)に開発された最も古い人工透析です。
腹膜とは、お腹の中に詰まっている小腸や大腸を包んでいる薄い膜で、毛細血管がこまかい網の目にように走っています。腹膜透析は、この腹膜の表面にあるたくさんの毛細血管を介して血液中の余分な水分と老廃物を排出します。
腹膜透析の準備はカテーテルから
腹膜透析を行う前に、お腹に透析用のカテーテルを埋め込む手術を行う必要があります。お腹から25cmほどカテーテルが出た状態になりますが、服を着ればあまり目立ちません。
腹膜透析のメリットは、血液透析に比べて残っている腎臓の機能をより長く保つことができる点です。
デメリットは透析期間は約5年が目安で、その後は血液透析への移行が必要となることです。腹膜透析は血液透析のような大掛かりな機器を必要としないので、自宅で行うことが可能です。血液透析に比べて通院回数が2週間に一度と透析の回数を減らすことが大きなメリットです。
腹膜透析は24時間連続して行う「連続携行腹膜透析」(CAPD)と「自動腹膜透析」(APD)があります。CAPDは1日平均4時間透析液の入ったバッグの交換を行います。
APDは夜間自動的に透析液を交換します。デメリットとしては感染症に注意する必要があります。カテーテルから感染して腹膜炎を起こすことがあるので、バッグ交換時や、入浴時の扱いには注意が必要です。
自分にあった透析方法を選ぶことが大切
一般的には透析導入後は、日常活動や食事制限が少しゆるやかになると言われています。ですが、血液透析の方は「たんぱく質」と「カリウム」の摂取量には注意が必要です。
腹膜透析の方は旅行に行く際は透析液の交換が必要になったり、腹筋をよく使用する運動は控えるようにと指導されます。また、海外旅行に行く場合は主治医の情報提供書(英文)が必要となります。
患者の多くは「血液透析」、「腹膜透析」といった腎代替療法を告げられると、不安や困惑、悲観する方が多くいます。
ですが、透析療法は確立されてきている治療法ですので、少しの制限はありますが生活していくことはできます。実際、何十年も透析療法をしながら生活している患者もたくさんいます。それぞれの違いをよく理解し、自分にあった透析療法を選ぶことで前向き生活できるようになるはずです。
まとめ
透析療法は、腎移植を行わないかぎり一生続けることになります。「血液透析」と「腹膜透析」は一長一短あり、どちらを選択するかは患者の生活スタイルに合わせことになります。
透析療法になったからといって必要以上に失望・絶望することはありません。透析療法を適切に行い、体の状態を良好に保つことができれば、多少の制限はありますが健康な人と一緒に生活することができます。
透析療法の説明、生活上の注意点など医師に詳しく聞き、自分にあった透析方法を選びましょう。
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