週3回の人工透析患者、余命は何年くらい?
人工透析は慢性腎不全患者には欠かせない治療法です。日本では週3回の透析が一般的ですが、週3回の人工透析の余命はどのくらいなのでしょうか。週3回と週5回の人工透析の余命の違いや、日本で週3回の透析が主流である理由について掘り下げていきます。
透析回数と余命の関係
日本における透析回数は週3回が一般的です。わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在)によると、透析患者の平均余命は、50代男性は12.8年~17.4年、女性は14.8年~19.8年、60代男性は8.3年~12.3年、女性は9.8年~14.3年です。1)
週3回の透析では、月・水・金では「土・日」、火・木・土では「日・月」の日曜を含む中2日間空くことになりますので、中2日間空く日は水分や老廃物が溜まりやすい状態で、死亡リスクが高くなることが言われています。
心不全がある場合や高血圧が持続している場合、透析中の低血圧がみられる場合、高リン血症が持続する場合は透析回数を増やすことを検討すべき2)と日本透析医学会ガイドラインでも示されており、透析回数を増やした方が、体調をコントロールしやすくなります。
日本ではほとんどが週3回・1回4時間の透析ですが、欧米や米国腎臓データシステム(USRDS)によると、毎日短時間の血液透析を受けた患者の生存率は週3回の透析患者よりも2~3倍良好だったという報告3),4)があります。
一般的な週3回の透析よりも、透析回数を増やした方が身体の状態をコントロールしやすくなり、余命の延長も期待できる報告が得られています。
・1)わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在)透析会誌55(12):665~723,2022
・2)日本透析医学会ガイドライン III透析スケジュール 日本透析医学会雑誌 46巻7号 2013
・3)Koshikawa S, Akizawa T, Saito A, Kurokawa K.Clinical effect of short daily in-center hemodialysis.Nephron Clin Pract 2003;95:c23-30
・4)Carl M. Kjellstrand et al.Short daily haemodialysis: survival in 415 patients treated for 1006 patient-years Nephrology Dialysis Transplantation, Vol23(10)
2008, 3283–3289
週3回と週5回で余命は変わる?変わらない?
Scribnerらが提唱した(1回の透析時間)×(1週間の透析回数)×(1週間の透析回数)で評価できるhemodialysisproduct(HDP)の数値が高いほど、余命は良くなると言われています。
- 1回4時間・週3回の透析の場合は、HDP=4×3×3=36
- 1回3時間・週5回の透析の場合は、HDP=3×5×5=75
- 1回2時間・週6回の透析の場合は、HDP=2×6×6=72
1回2~3時間・週6回の透析は良い健康状態を維持でき、塩分制限により血圧コントロールが可能5)なことが報告されています。
1回の透析時間が短くても、1週間の透析回数が増える方がHDPは高くなり、余命が良くなることが期待されます。
人工透析は週3回が多い理由
日本透析医学会によると、週3回、1回4時間より透析時間が短くなると、死亡リスクが高くなる6)とされており、腎臓の機能を補える最低限の透析頻度が週3回・1回4時間とされています。
診療報酬の観点からも、算定できる透析回数が1ヶ月14回まで7)と決まっているため、週3回・1回4時間の透析を基準としている透析施設が一般的です。
1ヶ月15回以上の透析回数は、診療報酬上では認められておらず、週5回、週6回の通院となると、患者の負担も大きくなるため、頻回透析を行う場合は在宅透析で対応している透析施設もあります。日本における2022年末の在宅透析の割合は全体の0.2%8)であり、昔に比べて件数は増えているものの、まだまだ普及しているとは言えない状況です。
・6)維持血液透析ガイドライン:血液透析処方(修正版2014.01.06)日本透析医学会雑誌46巻7号2013
・7)診療報酬点数 J038 人工腎臓(1日につき)
・8)わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)透析会誌56(12):473~536,2023
まとめ
透析回数を増やすと老廃物や水分が溜まりにくくなり、体調をコントロールしやすくなります。1回の透析時間と1週間の透析回数の2乗を掛け合わせたHDPの数値が高くなるほど余命が良くなりやすいと言われており、透析回数を増やすことでHDPも高くなります。
ただ、現状の診療報酬上では透析は1ヶ月14回までの算定しか行えないことや、週3回以上の透析になると、患者さんの通院の負担が増えることなどがあり、週3回・1回4時間の透析が一般的となっています。
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