早期発見・予防が大切!透析患者に起こりやすい12の合併症とは?
人工透析は、弱ってしまった腎臓の働きを機械で補う治療です。しかし、すべての機能を完璧に代行できるわけではありません。そのため人工透析を続けているうちに、さまざまな合併症が起こることもあります。
しかし、合併症について予め知っておくことで、予防してリスクを引き下げることが可能です。
短期的合併症と長期的合併症
人工透析の合併症は、短期的合併症と長期的合併症に分けられます。
短期的合併症とは、体が透析に慣れていないために透析治療を始めた直後に起こる合併症。長期的合併症は、透析を長く続けているために生じた不具合によって起こります。
3つの短期的合併症
1.不均衡症候群
短期的合併症の代表といえば、不均衡症候群でしょう。透析治療で血液が急速に濾過される状態に脳が対応できず、頭痛・血圧の低下・吐き気・こむらがえり・倦怠感といった症状が出ます。
症状はほとんどの場合が一過性で、体が透析治療に慣れてくると起きなくなります。
しかし、まれに意識障害などに至ることもあるので注意が必要です。透析治療後に頭痛や吐き気などを感じたら、すぐに医師に相談しましょう。
2.高血圧
高血圧は透析を始めたころによく見られる合併症です。水分や塩分を摂りすぎているため、透析治療では排出しきれず血液量が増加することで起こります。自覚症状は、頭痛・吐き気・イライラ・眠りが浅くなるなどです。
高血圧を放置すると、心臓病・脳卒中・動脈硬化・視力障害など重篤な合併症の原因になることも。水分や塩分の摂取量をコントロールし体重の増加を抑えることで、高血圧を予防できます。
3.低血圧
透析治療で血液量が減ったときに血管や心臓がうまく対応できないと、低血圧になります。自覚症状は、頭痛・あくび・吐き気・動悸・冷や汗などです。
低血圧の状態が続くと、透析治療が困難になることもあります。高齢の方や糖尿病・貧血・低栄養・心機能障害などがある患者は低血圧になりやすいので注意しましょう。
9つの長期的合併症
1.心不全
体重が著しく増加したり、高血圧状態が長期間続いたりすると、心臓に負担がかかり心機能が低下してしまいます。その結果起こるのが心不全で、むくみ・息切れ・呼吸困難といった症状が現れます。最悪の場合は死に至ります。
予防としては、水分や塩分の摂取量を調整し、血圧をコントロールすること。水分や塩分を取り過ぎると、血液量が増えて心臓にさらに負担がかかってしまいます。
また、リンを過剰に過剰に摂取すると、心臓の弁が石灰化する心臓弁膜症から心不全になる危険性が高まります。貧血でも心臓の働きが阻害され、心不全を起こしやすくなります。食事療法では水分や塩分だけでなく、ミネラル類の摂取量にも気を配りましょう。
2.脳血管障害
脳血管障害には主要なものとして、脳内の血管が破れる脳出血と、脳の血管がつまる脳梗塞があります。脳出血を起こす要因となるのは高血圧。脳塞栓は動脈硬化が主な要因となりますが、動脈硬化の悪化には高血圧も大きく関わっています。
透析患者は健康な人に比べて、動脈硬化の進行が早いとされています。ろれつがまわらない・手足がしびれるといった症状を感じたら、脳血管障害を疑って早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
予防としては、食事療法を行って血圧や体重の変化を少なくすることが大切です。また、定期的に頸動脈エコーやMRAによる検査を受けて、動脈硬化がどの程度進んでいるのか把握しておきましょう。
3.高リン血症
人工透析ではどうしても、腎臓のように効率よくミネラルを処理できません。ミネラルのひとつであるリンが十分に除去できず、血液中に溜まってしまうと高リン血症になります。
余分なリンはカルシウムと結合し、血管壁に付着して動脈硬化を引き起こします。また、血液中のリン濃度が高くなると、副甲状腺ホルモンが分泌されて骨が脆くなってしまいます。
予防としては、食事で摂取するリンの量をコントロールすること。発症してしまった場合は、リンを便と一緒に排出させる薬を服用して治療します。
4.高カリウム血症
透析患者は腎臓の働きが弱っているため摂取したカリウムが血液中に蓄積してしまいます。そのため、カリウムを多く含む野菜や果物を食べ過ぎると、高カリウム血症になってしまいます。
症状としては手足や口のしびれ・脱力感・味覚異常・知覚異常などですが、重篤な場合は不整脈や心停止といった生命にかかわる事態になることも。なによりの予防策は、食事でのカリウムの摂取量に注意することです。
5.貧血
腎臓の働きが悪くなると、エリスロポエチンという造血ホルモンが十分に分泌できなくなります。そのために起こる貧血も人工透析の合併症のひとつです。
貧血の症状は、手足のだるさ・倦怠感・動悸・息切れなど。日頃からバランスのよい食事を心がけ、適度な運動をすることで予防できます。
6.骨障害
腎臓がうまく働かないと、カルシウムが効率よく吸収できなくなってしまいます。すると体は体内のカルシウム濃度を上げるため、骨に蓄えられたカルシウムを放出し始めます。
透析治療を長く続けていると、骨が脆くなって関節が変形したり痛みが出たりすることがあります。こういった骨病変を早期発見するには、定期的に血液検査を行うこと。食事の内容に気を配り、体内のミネラルバランスを整えて予防しましょう。
7.透析アミロイドーシス
透析治療では十分に除去できない物質のひとつに、タンパク質の一種であるβ2ミクログロブリンがあります。この物質から作られるアミロイドが、全身の骨関節組織に沈着して障害を引き起こすのが透析アミロイドーシスです。
多く見られるのが、手首の神経が圧迫されて痛みやしびれを感じる「手根管症候群」です。肩関節で起こる「肩関節周囲炎」や、脊椎がずれて痛みや麻痺が起こる「破壊性脊椎症」も、この合併症のひとつです。
実は根本的な治療法は、まだ確立されていません。十分な透析を行うことで進行を抑え、生活に支障がある場合は整形外科手術で対応します。
8.感染症
透析患者は細菌やウイルスに対する抵抗力が低下しているため、感染症にかかりやすくなっています。同時に感染症にかかっても症状が出にくいという傾向もあり、治療が遅れることも少なくありません。
原因として考えられるのは、食事制限や透析膜から栄養素が流れ出してしまうことで起こる栄養不良です。糖尿病や代謝異常によって、白血球が働きが弱くなり抵抗力が低下することもあります。
予防としては十分な栄養と睡眠をとって、少しでも抵抗力を向上させること。手洗いの習慣をつけて、シャントなどを清潔に保つことです。
9.多嚢胞化萎縮腎
腎臓の働きが悪くなると、やがて腎臓は小さく縮んで表面が硬くなる腎萎縮を起こします。そこに「嚢胞」という袋状のものができてしまう合併症です。
透析治療を始めて10年以上経つと約90%の患者が発症します。嚢胞が破れて出血したり、腎臓がんになったりといったことが起こります。
しかし、自覚症状はほとんどなく有効な予防法もありません。定期的に超音波検査やCT検査を行って腎臓の状態を把握し、出血などがあった場合は手術で対応します。
透析患者の合併症と死因の関連性
日本人全体での死因を見ると、1位の「悪性腫瘍」が30%を占め「心疾患」「脳血管障害」「感染症」と続きます。
ところが、日本透析医学会の調査による透析患者の死因を見ると、1位の「心疾患」が28%。次に「感染症」20%が続き、「悪性腫瘍」「脳血管障害」の順です。
心不全・脳血管障害を合わせると、透析患者の約4割が循環器系の疾患で死亡するという結果になっています。循環器系の合併症が透析患者の寿命に大きく関係していることが分かります。
血圧や体重の管理が重要
心不全や心筋梗塞といった循環器系疾患のリスクを減らすには、高血圧の予防が一番の対策。そのためにも食事療法をしっかりと行い、体液量や体重を増やさないようにすることです。
また、心電図や心エコーなどの検査を定期的に受けることで早期発見できます。透析患者は狭心症や心筋梗塞の痛みを強く感じないことも多いので、少しでも体調に変化を感じたらすぐに医師に相談するようにしましょう。
まとめ
日本透析医学会の調査によると、透析患者の余命は健康な人のおよそ半分という非常に厳しい結果となりました。
しかし、食事や水分摂取の制限をきちんと守っていれば、死に至るような合併症のリスクを引き下げることができます。
医師や医療スタッフがどんなに頑張っても、患者本人が治療と向き合っていなくては効果が上がりません。透析や合併症のことをよく理解して節制すれば、それだけ寿命は延びると考えて意欲的に治療に取り組んでみませんか。
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