一日の摂取カロリーはどれくらい?透析患者さんの食事療法
透析治療を十分に受けるためには、カロリーをしっかり摂って元気に活動できる体を維持することが重要です。
しかし、透析患者さんは高齢の方が多いことや体の状態、透析の影響などから食欲が低下しやすく、カロリーを十分にとれないことが多くみられます。
透析患者さんに必要な一日のカロリー量やしっかりとカロリーを摂るための工夫についてみていきましょう。
透析患者さんの一日当たりの摂取カロリーの考え方
日本透析医学会の慢性透析患者の食事療法基準によると、透析患者さんの1日の摂取エネルギー量は標準体重BMI=22で計算して、体重1kg当たり30~35kcalとされています。
身長160cmの場合、「標準体重=身長(m)×身長(m)×22」に当てはめると、標準体重は1.6×1.6×22=56.32kg≒56.3kgとなります。
体重1kg当たり30~35kcalで計算すると、56.3kg×30kcal=1689kcal、56.3kg×35kcal=1970.5kcalで、1689~1970.5kcalが必要ということになります。
ただし、性別や年齢、身体活動度、合併症の有無など、個人の状態によって摂取カロリーは異なります。
参考文献:慢性透析患者の食事療法基準 透析会誌47
一度の透析での消費カロリーはどれくらい?
血液透析時には体の水分は不足し、末梢の血管は拡がって血圧が下がりやすくなります。
血圧を一定に保とうとして心臓が血液をたくさん送り出そうとするため、多くのエネルギーを使います。また、たんぱく質の原料となるアミノ酸やグルコースが透析液へと移動して体から失われるので透析患者さんのエネルギー消費量は大きくなると言われています。
4時間の血液透析時のエネルギー消費量を調査した報告では、女性血液透析患者では141.3±25.5kcal/4hr、男性血液透析患者では187.8±50.2kcal/4hrという結果がみられています。
141kcalはコンビニのおにぎり(梅)1個程度、188kcalはプリン1個程度に相当します。
一般の女性対照者の消費カロリーと比べると体表面積や体重当たりでは透析患者さんの方が消費カロリーは多くなっています。
とくに、透析患者さんの透析時のカロリー消費量は食後において男女ともに増加がみられます。
参考文献1:(医)社団つばさ つばさクリニック 正しく食べて痩せない透析… 痩せは危険因子 …
参考文献2:血液透析患者の消費エネルギーと食事管理 透析会誌24
食欲低下時の原因とエネルギー摂取のための工夫
食欲が低下し、消費カロリーに対して摂取カロリーが少ない状態が続くと、体の脂肪やたんぱく質がエネルギーとして使われて痩せて筋肉が減るため疲れやすくなり、無気力となります。たんぱく質がエネルギーとして使われたあとには尿素窒素が残り、体の中に毒素もたまります。
体の良い状態を維持するには食欲低下の原因を探り、摂取カロリーを増やすことが必要です。
透析患者さんの食欲低下の原因
透析患者さんの食欲低下は次のようなさまざまな原因から起こります。
- ・透析が十分に行えずに尿毒症となる
- ・体の状態が酸性に傾く(アシドーシス)
- ・飲んでいる薬の副作用
- ・高齢による食事量の減少
- ・胃腸障害
- ・味覚障害
- ・慢性炎症、合併症
- ・活動量の低下
- ・うつや偏った食事の好みなど
- ・ひとり暮らしや老老介護などの社会的環境
透析患者さんの摂取カロリーを増やす工夫
食欲がなくて少ししか食べられないときには調理法や食事回数を増やす、栄養補助食品を利用するなどの工夫で摂取カロリーを増やしましょう。
調理法の工夫
同じ魚料理でも刺身や汁物、蒸し物などの油を使わないヘルシーな調理法よりも、油やバターでのソテーや油で揚げる調理法であれば、多くのカロリーを摂取できます。
煮物であれば砂糖を多めに入れる、和え物であればマヨネーズをプラスするなどプラスカロリーの考えで調味料を加えることもおすすめです。
食事回数を増やす
食べたいものや好みのものを積極的にとり入れ、食事回数を増やしてカロリーを多く摂りましょう。クッキー、チョコレート、小さめのおにぎりやパンなど、手軽に食べられる自分の好みのものを食事の間にプラスしてカロリーを摂ると良いでしょう。
栄養補助食品を利用する
少量で多くのカロリーを摂取できるドリンクやゼリーなどの栄養補助食品が販売されています。主治医や管理栄養士に相談して市販の栄養補助食品を取り入れることもおすすめです。
まとめ
透析患者さんにとって一日の摂取カロリーをしっかり摂ることは、十分な透析治療を受けるために大切なことです。
しかし、透析患者さんは高齢やさまざまな原因から食欲不振に陥りやすく、カロリー不足になりがちです。
油を多く使う調理法や調味料をプラスする、食事回数を増やす、栄養補助食品の利用など、カロリー摂取を増やす工夫を取り入れていきましょう。
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