透析患者さんは誤嚥性肺炎にも要注意。知っておきたい口腔ケア
誤嚥性肺炎は高齢者に多く、死亡率も高い肺炎です。感染症にかかりやすい透析患者さんは誤嚥性肺炎に注意が必要です。
誤嚥性肺炎を起こしやすい口腔状態と誤嚥性肺炎を防ぐための口腔ケアについて知り、予防しましょう。
透析患者さんは誤嚥性肺炎を起こしやすい
透析患者さんは「感染症にかかりやすいこと」に加えて、「高齢者が多いこと」「高齢の透析患者さんは身体機能や嚥下機能が低下しやすいこと」「口腔の衛生状態が不良になりやすいこと」などから誤嚥性肺炎を起こしやすい状態です。
高齢者は肺炎になりやすい
日本において肺炎が原因で死亡した人の95%が65歳以上の高齢者です。高齢者の肺炎のうち誤嚥性肺炎は7割以上を占めています。
65歳以上の透析患者さんの割合は約7割を占めており、透析患者さんの死因の第二位である感染症で最も多いものは肺炎であることも報告されています。高齢の透析患者さんは肺炎のリスクが高いと言えます。
参考文献:大類 孝ほか 1.高齢者肺炎・誤嚥性肺炎 日本内科学会雑誌第99巻第11号
身体機能や嚥下機能が低下すると誤嚥しやすい
高齢の透析患者さんは身体機能が低下して要介護の一歩手前であるフレイルの状態である患者さんも多くいます。
高齢になると飲み込みの機能である嚥下機能も低下するので食べ物や水分が気管に入ってもムセにくく、気づかないうちに飲食物が気管に流れ込んでいることもあります。
飲食時だけでなく、夜間に寝ている間に唾液が気管に流れ込むことも少なくありません。
口腔の衛生状態が不良になりやすく誤嚥性肺炎につながりやすい
身体機能や嚥下機能が低下すると口腔の衛生状態を清潔に保つことが難しくなります。口腔ケアが行き届いていないと虫歯や歯周病を起こす細菌が唾液とともに気管に入り込み、容易に誤嚥性肺炎になります。
透析患者さんと口腔乾燥
唾液は口の中の細菌の増加をおさえて、虫歯や歯周病の進行を防ぐ免疫機能の役割も持っています。透析患者さんは透析での除水や日常的な水分摂取制限、唾液を分泌する唾液腺の萎縮、使用している薬の副作用などによって唾液の分泌が少なくなり、口の中が渇きやすい状態です。
透析患者さんの口の中は一般的に不良な状態であることが多く、口腔乾燥をはじめ、歯石やプラークの付着、歯のぐらつき、歯肉のやせなど、虫歯や歯周病のリスクも高い状態です。虫歯や歯周病が多いと口の中の細菌も増えて誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
誤嚥性肺炎を防ぐためには
誤嚥性肺炎を防ぐためには誤嚥を防ぐための対策と感染症の予防・重症化を防ぐための対策が必要です。
口腔ケア・嚥下リハビリテーション
誤嚥性肺炎を予防するには、口の中の細菌が増えることを防ぐために「口腔内の衛生状態を良好に保つこと」「嚥下機能の低下を予防すること」が大切です。
口腔ケアでは口の中に溜まった細菌の温床となる歯石やプラークを取り除きます。口腔ケアを行うことで患者さんが口の中の状態に関心を持つことにもつながり、衛生状態を保ちやすくなります。同時に口や舌の運動や発声を行うことで嚥下機能低下も予防できます。
誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが重要であることが知られており、国内の研究では週に1回の歯科医師・歯科衛生士の口腔ケアで肺炎の発症が約4割減少したことが報告されています。
家庭での歯磨きなどを継続することに加え、定期的な歯科での検診とケアを受け、口の中の衛生状態を良好に保つことが大切です。
口や舌を動かす体操や発声練習をして嚥下機能低下の予防にも努めましょう。
手洗い・うがいの励行・予防接種
高齢になるにしたがって肺炎全体での誤嚥性肺炎の割合は高くなります。肺炎の重症化や死亡を予防するには、感染症予防対策としての手洗い・うがいの励行と肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの予防接種を受けることが重要です。
肺炎球菌ワクチン接種により肺炎全体の発症を予防し、死亡リスクを軽減することが示されています。
まとめ
高齢の透析患者さんは誤嚥性肺炎を起こしやすい背景があります。死亡リスクも高い誤嚥性肺炎を予防するためには口腔ケアが有効であることが報告されています。
透析患者さんは口の中が乾燥しやすく、口の中の状態が不良となりやすいため、家庭での毎日のブラッシングに加えて歯科で専門的なケアを受け、口の中を良好な状態を保つことが大切です。
口腔ケアや嚥下リハビリテーションの実施で誤嚥を防ぐことと、感染症予防対策として手洗い・うがいの徹底と肺炎球菌ワクチンを接種し、肺炎の重症化や死亡を防ぐことが重要です。
※コラムに関する個別のご質問には応じておりません。また、当院以外の施設の紹介もできかねます。恐れ入りますが、ご了承ください。
※当ブログの記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねます。ご了承ください。