インプラントは受けられる?透析患者さんが知っておきたい歯科知識
虫歯や歯周病などで歯を失った場合に、あごの骨に歯科材料を埋め込んでその上に義歯をかぶせ、しっかり噛めるようにする治療がインプラントです。
インプラント治療では入れ歯のように取り外す必要がなく、入れ歯の金具やブリッジのように残っている健康な歯に負担をかけることもありません。見た目もよく、失った歯の本数に限らず治療できるので、透析患者さんの中にもインプラントを希望する方が多くいらっしゃいます。
今回は透析患者さんが知っておきたいインプラントについて確認していきましょう。
糖尿病患者さんとインプラント
透析患者さんが、透析を受けることになった原因として多い病気は糖尿病性腎症です。1)インプラントは手術を行う治療ですので、全身管理が必要となります。
そのため、手術自体を安全に行うことができる全身状態でなければインプラント治療を行うことはできません。また、インプラント手術では、骨に埋め込んだインプラントが骨と結合することで、しっかりと噛めるようになります。インプラントを骨に埋め込む際にできる傷が順調に回復していくことも大切です。
骨結合や傷の回復がうまくいかないと、インプラントとしての機能が果たせなくなります。
糖尿病患者さんは、血糖値の変動や感染しやすい、傷が治りにくい、骨がもろくなりやすいなどのリスクがあります。全身状態が良好であること、血糖値のコントロールができていること、骨の質が基準を満たしていることなどがインプラント治療を受ける条件となります。
参考文献:わが国の慢性透析療法の現況(2018 年 12 月 31 日現在)図 9慢性透析患者 原疾患割合の推移,1983-2018
透析患者さんはインプラント治療に注意が必要
口腔インプラント治療指針2016では「腎不全で透析を受けている患者ではインプラント治療は禁忌である」とあります。糖尿病を合併している以外の透析患者さんでも、インプラントの適応となるには条件がそろう必要があり、厳重な注意が必要と言えるでしょう。
感染リスク
透析患者さんは貧血や低タンパク血症(血液中のタンパク質量の低下)、ステロイド治療によって免疫が低下している状態です。
また、透析患者さんの唾液の量は健康な人の1/4~1/8という報告があり、口の中が乾燥しています。唾液は口の中の細菌が増えるのを抑える免疫機能も持っているので、口の中が乾燥していると免疫力が低下します。免疫力が低下すると感染しやすくなるので、歯茎や骨に傷ができるインプラント手術では感染リスクが高くなります。
インプラント挿入後も炎症を起こしてインプラント周囲炎になると、蜂窩織炎や骨髄炎などの重度な感染症へと進展していく場合もあり、注意が必要です。
全身状態
高血圧や循環器疾患などを合併している人も多く、全身状態が安定していなければインプラントの手術自体を受けることが難しくなります。
骨がもろくなりやすい
透析患者さんは腎臓のはたらきが低下している影響やステロイド薬の使用によって、骨量が減り、骨がもろくなりやすい状態です。
そのため、インプラント治療の際に骨結合がうまく進まないリスクがあります。また、骨粗しょう症があってビスフォスフォネート製剤を使用している場合は顎の骨が壊死する危険性があるため注意が必要です。
血が止まりにくい
透析患者さんは血栓予防のために血液循環をよくする薬を飲んでいることが多いので、手術時に血が止まりにくいというリスクがあります。
透析患者さんは歯科麻酔にも注意が必要
インプラント治療では局所麻酔、笑気吸入麻酔、静脈内鎮静、全身麻酔といった麻酔を用います。透析患者さんは高血圧や循環器疾患、糖尿病を合併している人も多く、麻酔に含まれている成分が高血圧を悪化させるリスクや、普段飲んでいる薬と麻酔薬を一緒に使うことによって病状が悪化する危険もあり、注意が必要です。
透析患者さんは体重や身体の水分量、電解質バランス、血液の状態、自律神経などが良好な状態を保てていないことも多く、全身麻酔の影響を受けて悪化することもあります。
参考文献:横山和子 維持透析患者の麻酔-第42回 日本透析医学会カレントコンセプトより 透析会誌31
まとめ
透析患者さんにとっては、インプラントは簡単に受けることが難しい治療です。
インプラントは手術時だけでなく、埋め込んだ後も感染を起こさないように継続した管理が大切です。
近年では、インプラントの歯科材料や歯科技術の進歩によって、治療の適応も広がっています。まずは主治医にインプラント治療を受けたい旨を相談するようにしましょう。
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