透析患者さんは肥満より痩せが多い?意外と知らない”危険因子”とは
透析患者さんは痩せやすいという報告があります。肥満よりは痩せている方が身体にはいいのでは?と思ってしまいますが、実際は、肥満よりも痩せている方が死亡リスクが高いと言われているのです。
透析患者さんが痩せてしまう理由や痩せないためのポイントを確認しましょう。
透析患者さんは痩せやすい
糖尿病などの生活習慣病を合併していることも多い透析患者さんは、太っている人の方が多いようなイメージもありますが、透析をしていることによって痩せてしまいやすいのです。
肥満や痩せの程度をみるのに用いられるBMIは【体重(Kg)】÷【身長(m)の2乗】で求められます。日本の基準では、BMI25以上は肥満、BMI18.5~25未満は普通、BMI18.5未満が痩せとされています。
透析患者さんが痩せるという研究結果についてみていきましょう。
透析患者さんは透析期間が長くなるほど痩せやすい
透析患者さんの透析期間別のBMIをみてみると、透析期間10年以下はBMI:21.1(19.5~23.9)、透析期間11年以上20年以下ではBMI:20.1(18.1~21.9)、透析期間21年以上では20.1(17.7~21.7)と、透析期間が短い患者さんより長い患者さんでBMIが低くなっています。
また、BMIが18.5以下の「痩せ」の割合は、透析期間10年以下は8.9%、透析期間11年以上20年以下は34.2%、透析期間21年以上は40%と、透析期間が長い患者さんの40%が痩せているという結果が出ています。
透析患者さんが痩せやすい理由
ではなぜ、透析患者さんは痩せやすいのでしょうか。
透析患者さんが痩せる理由として、尿毒症による食欲不振、たんぱく質・エネルギー障害による低栄養が挙げられます。
たんぱく質・エネルギー障害とは
PEM(たんぱく質・エネルギー欠乏)
食欲不振や食事の偏りなどにより、たんぱく質やエネルギーを十分に摂取できずに低栄養となります。
PEW(たんぱく質・エネルギー消耗)
筋肉や血液中のたんぱく質やエネルギーとなる体脂肪が減少して起こる低栄養です。PEWは長期間透析をしている患者さんにみられやすく、PEWであると死亡リスクが高くなることも言われています。
食べたものからたんぱく質やエネルギーが十分に摂れないことや、食べていても身体に蓄えられているたんぱく質やエネルギーが足りなくなることで低栄養となり、痩せやすくなります。
低栄養は痩せるだけでなく、筋肉量・筋力の低下、免疫の低下、骨粗鬆症、認知機能の低下、気力の低下などももたらします。
体重を評価するBMIと死亡リスクの関係
太っていると生活習慣病などになりやすく、死亡リスクも高くなるということが一般的には知られていますが、実は、痩せていても死亡リスクが高くなるということがJPHC研究によりわかっています。
透析患者さんの場合のBMIと死亡リスクとの関係の研究も国外、国内で複数あります。国外の研究報告では、「BMIが低い=痩せている」ほど死亡リスクが高くなり、さらに、「BMIが高い=肥満である」ほど死亡リスクが低いことも言われています。
BMIの基準は国によって異なり、WHOの世界基準ではBMI30以上を肥満としています。
日本の研究でも「BMIが低い=痩せ」で死亡リスクが高くなり、「BMIが高い=肥満」だと短期の予後が良好であることが報告されています。
とくに、高齢者は痩せていると死亡リスクが高くなるという報告もあります。一方、60歳未満の方は肥満が死亡リスクとなることも言われています。
参考文献1:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ 多目的コホート研究 肥満指数と脂肪率との関係について
参考文献2:東京医科歯科大学 プレス通知資料慢性腎臓病患者において、高体重は短期予後の予測因子である
透析患者さんが痩せないようにするポイント
- ・しっかり食べて必要な栄養を摂る
- ・運動する
- ・十分な透析を行う
痩せないようにするためには、エネルギーやたんぱく質をバランスの良い食事からしっかり摂ることももちろん大切ですが、筋肉量や筋力を減らさないように運動を継続して行うことも大切です。そして十分な透析をしっかり行うことです。
透析患者さんの運動
透析患者さんは安静に過ごすべきという考え方もありましたが、安静に過ごすことで体力・筋肉量・筋力が低下し、活動量の低下や食欲不振を招くことが分かっています。
その結果として低栄養となって痩せること、死亡リスクが高くなることなど防ぐために、透析患者さんも適切な運動を行うことがすすめられています。
運動は、準備運動と有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせて行うことがおすすめです。
準備運動
ストレッチ、ラジオ体操など、全身の筋肉をほぐす運動を準備運動とクールダウンとして行う。5分程度。
有酸素運動
速歩き、サイクリング、足ぶみ、ベッドの上での自転車こぎ運動など。20~30分程度。
レジスタンス運動(筋力トレーニング)
ベッドに寝た状態で足上げ(自分の足の重さを抵抗とする)、お尻上げ、スクワットなど。10分程度。
合併症や体調などによって運動を控えた方が良い場合や運動内容・運動時間を考慮した方が良い場合もあるので、主治医の先生に確認してから運動は行いましょう。
まとめ
一般的には太っていても痩せていても死亡リスクは高くなりますが、特に透析患者さんの場合は、痩せていると死亡リスクが高くなることが言われています。
太り過ぎも合併症になりやすいリスクがあるのでよくありませんが「痩せ」を防ぐことは大切です。
透析期間が長くなるにつれて痩せやすいという報告もありますので、透析患者さんはしっかり食べて運動を行い、十分な透析をして「痩せ」を予防するように心がけましょう。
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