日本国内と世界の透析患者数の推移とこれから
日本における透析患者数はどのように推移してきたのでしょうか。現状と過去のデータをもとに今後の推移予測についても解説します。また、世界の推移や今後の推移も予測します。日本と世界における推移と今後の動向を知り、今後の透析生活のヒントとしていきましょう。
日本国内の透析患者数の推移
日本国内の透析患者数は長年にわたり緩やかに増加を続けてきましたが、2021年末の34万9,700人をピークに2022年末時点では、2,226人の減少がみられました。1)2)
この2021年をピークに減少するという結果は、2012年の将来予測の内容と一致しています。透析患者数が減少する理由として次のことが考えられています。
2021年をピークに透析患者数が減少した理由
透析患者の高齢化が進み70歳以上の透析患者が増加しているのに伴い死亡率も上昇しています。とくに、高齢者層での死亡が増えており全体の透析患者数が減少すると考えられています。3)
また、慢性腎臓病の治療成績向上により、2008年をピークに新規透析導入数は減少に転じています。さらに、透析導入の原因として多い慢性糸球体腎炎は2005年をピークに減少し、糖尿病性腎症を起因とする新規導入数の減少も見込まれていました。3)
・1)わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)透析会誌56(12):473~536,2023
・2)わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在)透析会誌55(12):665~723,2022
・3)わが国の慢性維持透析人口将来推計の試み 透析会誌45:599〜613,2012
世界の透析患者数の推移
世界の末期腎不全患者数は373万人に達しました。年5~6%のペースで増加して、血液透析265万人、腹膜透析34万人、腎移植74万人となっています。(2016年時点)4)
国別では、アメリカ49.6万人、中国46.5万人が多く、次いで日本、そのあとにインド13.3万人、ブラジル12.3万人と続きます。(2016年時点)
また、国際腎臓学会(ISN)のグローバル腎臓健康アトラス(ISN-GKHA)の報告によると、慢性腎臓病(CKD)患者は世界中で約8億5000万人ということです。最近では米国、日本、EU諸国以外の新興工業国や発展途上国での透析患者数が増加しています。4)
透析患者数の推移を予測する
世界における透析患者数の推移予測と日本における透析治療の将来について解説します。
世界の透析患者の推移予測
国際腎臓学会(ISN)の報告によると、世界人口における高齢化、生活習慣病の増加、新興工業国や発展途上国の経済発展や人口増加などにより、世界では2030年までに血液透析を含む腎代替療法を必要とする患者数は540万人に達すると予測されています。5)
特にアジア地域では、医療アクセスの改善などにより、透析治療を必要とする患者数が顕著に増加する見込みです。
日本における透析治療の将来
日本においては、今後も透析患者の高齢化が進むと推測されており、患者の生活の質(QOL)を重視した透析治療が求められています。特に在宅での治療が可能な腹膜透析(PD)は通院の負担が軽減されるので、QOLを維持できる選択肢の一つです。4)
日本では海外に比較して腹膜透析の普及率が低く、腹膜透析を導入できる医師の教育や医療保険制度の適用範囲を拡大するなどの対策が推進されています。4)
・5)James B. Wetmore & Allan J. Collins Global challenges posed by the growth of end-stage renal disease Renal Replacement Therapy 2016 2(15)
・4)太田圭洋 世界の眼からみた日本の透析と医療保険制度
まとめ
日本国内の透析患者数は長年にわたり増加してきましたが、2021年をピークに減少に転じています。これは透析患者の高齢化による死亡率の上昇や、新規透析導入数の減少が主な要因です。
一方、世界では、人口の高齢化、生活習慣病の増加、新興工業国や発展途上国の経済発展と人口増加などにより、透析患者数が引き続き増加すると予測されています。日本や世界における透析の動向は、慢性腎不全の医療政策や治療の選択肢に影響を与えますので、今後のより良い透析生活を送るためのヒントとしましょう。
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