透析治療に欠かせない正しい穿刺のやり方
透析治療で初めに行うのが「穿刺」です。穿刺がスムーズに行われなければ、透析自体を始めることができません。透析患者の苦痛を軽減し、シャントを長持ちさせるためには適切な穿刺方法を理解し、実践することが重要です。透析治療における穿刺について、正しい穿刺の方法やよくあるトラブル、その対応についても解説しています。
透析治療に必要な穿刺とは
透析治療では患者の血液を体外に取り出し、不要な物質を除去した後に、再び血液を体内に戻します。血液を取り出すために、針を血管に刺す行為が「穿刺」です。透析治療後は1回ごとに刺した針は抜くため、透析治療を行うには毎回の「穿刺」が欠かせません。
血液検査などで血液を採取するときや、注射や点滴などで薬剤を体内に注入するときには1本の針を刺しますが、透析では「体内から血液を取り出すための針」と透析装置によって「浄化した血液を体内に返すための針」の2本の針を刺します。
透析用の針は一般的な採血用の針に比べて太く、患者にとっては大きな痛みを伴います。また多くの場合、透析患者は透析治療時に大量の血液を取り出しやすいように動脈と静脈を繋いだシャントを作成しており、ほとんどの場合はこのシャントへ穿刺を行います。シャントは、透析患者にとって命を支えるポートです。穿刺によってシャントを傷つけることのないよう、また、透析患者に必要以上の痛みやストレスを与えることのないように的確な穿刺を行うことが重要です。
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正しい穿刺のやり方
シャントへの負担を抑え、患者に痛みの少ない穿刺を行うには、適切な手順と技術で行う必要があります。穿刺方法は、通常の穿刺のほかに、同じ箇所に何度も繰り返してトンネルを形成するボタンホール穿刺があります。今回は通常穿刺の方法を示します。
1.消毒
シャントの感染は命に関わるため、穿刺部周囲を消毒します。消毒剤は乾いてから消毒の効果が得られるため、しっかりと乾かしてから穿刺することが重要です。
2.穿刺部位の決定
透析効率がよく、安全に穿刺でき、長期的に良い状態を保てる部位を決定します。目で見て腫れや出血、感染の兆候はないか、音を聴いて狭窄音がないか、血管に触れて狭くなっている部位や血流の流れる音(スリル音)に異常はないかを確認します。腕がベッド面と平行に伸びた状態で、皮膚の薄い部分は避け、留置針を留置できる箇所を決めます。
3.穿刺しやすい部位の駆血
血管が出やすく刺しやすい部位に適度な強さをかけて駆血することが重要です。一般的には穿刺部に近い部位を駆血すると血管が出やすくなりますが、移動しやすい血管の場合は穿刺部の上部分の皮膚を軽く引っ張るようにすると血管が安定しやすくなります。
駆血の力が強すぎると動脈の血流が遮断されるため、血管の張りを確認して行うことが大切です。血管が十分に把握できる状態でないと、穿刺時に針が血管を貫いてしまいやすくなります。手術後すぐの場合や内出血・血管炎などが見られる場合などは、駆血帯を使わずに手で駆血した方がよい場合もあります。
穿刺時の角度と感覚を大事に
静脈・動脈のそれぞれの穿刺部位が狭い範囲で繰り返されると狭窄の原因となるため、一般的にはできるだけ離して刺すようにします。
穿刺時の血管に対する針の角度は30度以内とし、血管の状態に応じて角度を調整します。深い血管では挿入角度が浅すぎると、皮膚と血管の指す位置のずれが大きくなるため注意が必要です。
内針の先端が血管内に侵入したのを逆血で確認したら、針を寝かして進め、外針が血管内に侵入した抵抗感がなくなる感覚を頼りに外針を進めます。ゆっくりと、血管内に針が浸入した感覚を大事に穿刺します。
穿刺困難な場合
血流量が不足している場合や深い部位を走る血管や蛇行している血管、血管に凹凸がある場合、血管内腔が存在する場合などは穿刺が難しくなる傾向があります。穿刺が困難な患者では、超音波エコーを当てて血管の状態を確認しながら穿刺を行うエコーガイド下穿刺が推奨されます。
よくある穿刺のトラブルと対応
穿刺の際には穿刺ミスや血管の問題などでトラブルが起こることがあります。
皮下出血
穿刺時に針が動き血管が損傷すると、皮下出血が起こることがあります。皮下出血が起こった場合は、すぐに針を抜いて圧迫止血をします。
穿刺部瘤
穿刺部が瘤のように膨れ上がります。同じ部位に穿刺をし続けていると、血管の壁が薄くなって瘤ができます。瘤の皮膚が薄くなって光沢が出てきた場合や、日常生活に支障が出るほど大きくなってきた場合、感染が見られる場合や硬くなってきた場合には瘤をとる手術を行います。
感染
穿刺部の清潔が保たれていない場合に感染を起こすことがあります。穿刺部の赤みや腫れ、熱感、膿が出るなどが見られた場合には、大出血や全身感染が起こるリスクがあるので、抗生剤の投与など感染に対する治療を行います。
まとめ
透析治療における穿刺は、透析治療のたびに必要な処置です。穿刺は痛みを伴い、穿刺による血管損傷などにより、出血などのトラブルが起こると、シャントの寿命も短くなります。正しい穿刺の方法を理解した上で、一人ひとり異なる血管の状態に合わせた穿刺技術が必要です。穿刺によって起こる可能性のあるトラブルについても把握し、トラブル時に早期に対応できるようにしておくことも大切となります。
透析治療では、毎回穿刺が欠かせません。穿刺は痛みを伴うばかりでなく、血管を損傷することにより、出血などのトラブルを引き起こしてシャントの寿命にも影響を与えます。正確な穿刺方法を把握し、患者ごとに異なる血管の状態に適した技術を身につけることが重要です。また、穿刺によるトラブルが発生した際には、迅速な対応が求められます。
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