透析患者の末期症状と終末期患者への治療について
透析患者の末期症状とはどのような症状かを透析患者の死因のデータをもとに説明しています。また、終末期を迎えた透析患者へ行われる緩和ケアについても触れています。末期症状がみられる先で、いずれは誰もが迎える終末期医療について考える際の参考にしてください。
腎不全の主な症状
腎臓の機能が正常の30%まで低下した腎不全になると、体の中に水分がたまり、電解質の調節も上手くいかなることで、むくみや息切れ、口の渇き、手足のつり・脱力、気分不良、嘔吐、食欲低下、血圧の低下などの症状が現れます。
さらに、腎臓の機能低下が進むと老廃物が体の中にたまって尿毒症の症状がみられるようになります。みられる症状は、意識障害、睡眠障害、倦怠感、思考力・記憶力の低下、かゆみ、吐き気、尿量低下、血圧の上昇、イライラ、視力障害、息苦しさなどです。
透析患者の末期症状
わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)をみると、慢性透析患者の死亡原因は心不全22.4%、感染症21.5%、悪性腫瘍9.0%、悪液質・尿毒症・老衰等6.2%、脳血管障害5.9%、その他11.1%となっています。心不全、脳血管障害、心筋梗塞をあわせた心臓血管障害での死亡は32.0%です。1)
透析患者の約60%は心臓が酸素不足の状態になる虚血性心疾患にかかっているといいます。2)虚血性心疾患は、心臓に酸素や栄養を送る血管がつまったり狭くなったりして心臓への血流が少なくなるため、狭心症や心筋梗塞などの重篤な状態を引き起こしやすい状態です。
体の中の水分量が増加するので心臓に負担がかかり、心不全も起こしやすくなります。そのため、末期の透析患者は、心不全や虚血性心疾患などを合併している割合が多くなります。
そのほかにも長期間の透析によって、アミロイドという物質が全身の器官に沈着し、関節痛や筋肉痛、しびれなどを起こす透析アミロイドーシスや、活性型ビタミンDの不足による骨の軟化や骨の障害、免疫力の低下による易感染や悪性腫瘍などの合併もみられます。
抑うつや不安の症状を併せ持つことも多く、不安は関節痛などの痛みや息苦しさといった身体症状を助長するとされています。
・1)わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在)図11慢性透析患者 死亡原因と性別,2020
・2)透析を始めたら、「心臓のケア」が大切なこと PDF3P
・東京女子医科大学病院 泌尿器科腎臓病総合医療センター 透析について
・4.緩和ケアと看護の拡がりA.非がん疾患の緩和ケアと看護3)腎
終末期患者の透析治療と緩和ケア
適切な治療を受けても助かる可能性がない状況になった時期は終末期と呼ばれます。透析患者の高齢化が進み、糖尿病性腎症で重篤な心血管障害を合併している患者や複数の合併症を抱えた患者、胆がんの患者も増えています。
透析治療は現在の状態を改善・維持して社会復帰を臨むために行う治療ではなく、寝たきりの状態で延命のために透析治療を行うことも少なくありません。これらの背景から、2014年に日本透析医学会が「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を示しました。
重篤な心血管障害や胆がんの患者への透析治療は状態をかえって悪化させるため、透析治療を継続できない状況に陥ることもあるのが事実です。終末期の透析患者の状態から透析治療の継続が困難であり、家族本人、患者家族、患者に関わる医療チームで話し合ったうえで透析治療を見合わせ、今後のケアの方針の合意がなされたときには緩和ケアが行われます。
緩和ケアとは、透析患者の痛みや苦痛などの症状を緩和して精神的にも社会的にも生きることそのものの意味としても患者の希望に寄り添い援助するケアです。患者家族へは看取りも含めて支援します。
透析患者と家族にとって、長年継続してきた透析治療を終末期においてどう選択するかについては簡単に答えが出せないのは当然です。実際に終末期を迎えたときに本人が意思疎通をとれない状態であればなおさらでしょう。長年の透析生活の先にある終末期を考えるうえで、本人の意思を前もって記しておく事前指示書への関心も高まっています。
・日本透析医学会「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」透析会誌 47( 5 ):269~285,2014
・透析患者における終末期の「事前指示書」に対する意識調査
・透析療法における終末期治療・ケアと望ましい死―豊かな生の総仕上げを目指して―
まとめ
透析患者の末期は心不全や心筋梗塞、脳血管障害などの心血管障害を抱える患者が多く、重篤となりやすい状態です。長年にわたって透析治療を続けることによる透析アミロイドーシスや骨病変、悪性腫瘍などの合併症を抱えた患者も少なくありません。
終末期の透析患者は体の状態によって透析治療が継続できない事態にもなり得ます。いずれ訪れる終末期を迎えるにあたって、いざというときに本人の意思疎通ができずに困ることがないように患者本人がどうしたいかを家族、関わる医療スタッフに前もって共有しておくことは大切です。
緩和ケアも含め、終末期に受けたいケアについて考える機会を持ってみてはいかかでしょうか。
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