透析患者と排尿の話
腎臓の機能が低下している透析患者は尿の量や排尿の回数に変化がみられます。また、排尿が起こるメカニズムについて理解しておくと、なぜ透析患者に排尿の変化がみられるかがわかりやすくなります。
排尿のメカニズム
身体の中の老廃物や有害な物質を血液が集めて腎臓に運び、腎臓の糸球体で老廃物と有害な物質、余分な水分がろ過され、尿のもとがつくられます。1日につくられる尿の量は約1.0 L~1.5 Lです。尿のもとは尿細管を通って腎盂に向かう際に、体に必要な成分が吸収され、吸収されずに残ったものが尿となり、尿管を通って膀胱へ集められます。
膀胱に尿をためるときには、交感神経のはたらきで膀胱の平滑筋が緩み、膀胱の出口の括約筋が収縮します。膀胱の容量は約300~400mlで、尿が150~200ml程度溜まると尿意が起こります。
トイレへ行って排尿する際には副交感神経のはたらきで緩んでいた膀胱の平滑筋が収縮して尿を尿道へと押し出します。そして、収縮していた膀胱の出口の括約筋が緩み、尿が体の外へと出されて排尿が起こるという仕組みです。
夜間や運動後などは体から水分が失われるのを防ぐために、腎臓のはたらきで尿が濃縮され、排尿回数を減らすように調節されています。
透析患者は排尿しないって本当?
尿が全く出なくなるのには2つの原因が考えられます。
1つ目は膀胱にたまっている尿を膀胱の外に出すことができない尿閉の場合です。膀胱の出口が開かない状態や、膀胱のはたらきをコントロールする神経の障害で膀胱が収縮しないときに起こります。
2つ目は腎臓のはたらきが悪くなり、尿が膀胱にたまりにくくなる場合です。透析患者が排尿しなくなる原因は、腎臓のはたらきが悪くなることにより、身体の中の老廃物や有害な物質、過剰な水分などを含まれた血液を腎臓でろ過できず、尿そのものがつくられなくなるためです。
腎臓のはたらきが悪くなっていくとともに、徐々に尿量も減っていきます。腎臓が全くはたらかなくなると排尿はなくなります。
通常だと1日に約1.0 L~1.5 Lつくられる尿の量が400ml以下になることを乏尿、100ml以下になることを無尿といいます。1)
透析患者でも排尿する人はいます
排尿がなくなる透析患者もいますが、すべての透析患者が排尿しなくなるわけではありません。透析患者によって1日の尿量は異なり、全く排尿のない人もいれば500ml以上の排尿を保っている人もいます。
透析患者の尿量と透析導入後の年数の関係を調査したデータによると、透析治療を受けている年数が長くなるほど尿量が少なくなる人が多いことがわかります。
透析治療を導入してから2年以上経つと1日の尿量が500ml以上の透析患者は急に少なくなります。透析導入から6年以上経つと、尿量が500ml以上の透析患者はいなくなり、その一方で100ml未満の患者が急に増えています。
透析歴 | 尿量(ml/日) | |||
---|---|---|---|---|
100未満 | 100~200 | 200~500 | 500以上 | |
1年未満 | 1 | 2 | ||
1~2年 | 2 | 2 | 3 | 12 |
2~3年 | 1 | 2 | 4 | |
3~4年 | 3 | 1 | 2 | |
4~5年 | 2 | 1 | 1 | |
5~6年 | 4 | 2 | 1 | 1 |
6年以上 | 31 | 5 | 2 |
出典:大平整爾ほか 透析療法開始後の尿量 透析会誌23 (11): 1275~1279, 1990
通常だと、腎臓のはたらきによって夜間の排尿は少なくなるように調節されていますが、透析患者は尿を濃縮する腎臓の機能がはたらきにくいため、夜間の排尿回数が多くなることがあります。
まとめ
透析患者は腎臓の機能が低下して尿そのものがつくられにくくなるため、1日の尿量が減ります。腎臓には尿を濃縮して夜間の排尿回数を減らす機能もありますが、腎臓の尿を濃縮するはたらきが悪くなると夜間の排尿回数は増えることがあります。
1日の尿量は透析患者によって異なりますが、透析期間が長いほど、1日の尿量は少なくなる傾向です。透析を開始してからも排尿の量や回数の変化に注意しましょう。
※コラムに関する個別のご質問には応じておりません。また、当院以外の施設の紹介もできかねます。恐れ入りますが、ご了承ください。
※当ブログの記載内容によって被った損害・損失については一切の責任を負いかねます。ご了承ください。