透析患者はうつ病になりやすい?闘病生活を支えるご家族の方へ
透析患者は、生活の制限や病気の不安などから気分の落ち込みがみられやすく、うつ病を発症する患者も少なくありません。うつ病の症状・原因・治療などの基本的な知識や薬物療法のデメリットや注意点を透析患者を支えるご家族向けにまとめました。
そもそも、うつ病とは
うつ病とは、落ち込んだ気分が数週間以上続き、日常生活に支障をきたす気分障害のひとつです。
症状
気分の落ち込みや何をやっても楽しくないなどの精神的な症状とともに、疲れやすい、体が重い、食欲がない、起き上がることができないなどの身体的な症状がみられるようになり、日常生活が送りづらくなります。
原因
原因ははっきりとはわかっていませんが、精神的・身体的なストレスがかかり、脳のはたらきが上手くいかなくなると考えられています。きっかけは辛いできごとや結婚、出産、就職、引っ越しなどのライフイベント、体の病気、体の病気の治療薬などです。
治療
治療はストレスがかかる環境から離れて休養すること、抗うつ薬などの薬物療法、カウンセリングなどの精神療法、散歩や軽度の有酸素運動などの運動療法などが行われます。
・厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病
・厚生労働省 こころもメンテしよう 気分障害
・厚生労働省 こころの耳 うつ病とは
透析患者はうつ病になりやすい?
WHOによる発表では、⽶国でのうつ病の有病率は3~7%とされている1)のに対して、慢性腎不全の⼈のうつ病の有病率は15~60%とされています2)。調査の形式によって結果に幅はあるものの、慢性腎不全の⼈はうつ病になりやすいことがわかります。
・1)World Health Organization, Depression and Other Common Mental Disorders
・2)Epidemiology, Diagnosis, and Management of Depression in Patients With CKD
うつ病の薬物療法とデメリット
うつ病の薬物療法で用いられる薬とデメリットについて説明します。
うつ病で使われる薬
うつ病の薬物療法では、次の薬が用いられます。
抗うつ薬
うつ病の薬物療法では基本となる薬です。脳の神経伝達物質にはたらきかけ、気分の落ち込みなどの症状を和らげる作用があります。
非定型抗精神病薬
抗うつ薬のみの服用では症状の改善がみられない場合に、抗うつ薬の作用を高める非定型抗精神病薬が用いられます。
抗不安薬
うつ症状でみられる不安や緊張を緩和させる作用があります。
睡眠導入薬
うつ症状でみられる寝つきの悪さや睡眠中の目覚めなどの睡眠障害に対する薬です。
気分安定薬
気分の変動を抑える作用があり、主に気分の高揚と気分の落ち込みを繰り返す双極性障害で主に用いられる薬ですが、うつ病で使われることもあります。
薬物療法のデメリット
うつ病治療で用いられる薬の中には、透析患者が飲むと血中濃度が高くなる危険性があり、使えない薬もあります。眠気や脱力感、立ちくらみなどの副作用がみられて転倒するリスクもあり、注意が必要です。
他にも、副作用として、のどの渇きや便秘などがみられることがあります。高齢の患者や心臓や肝臓などの合併症がある患者は、副作用が強く出ることもあるため、とくに注意が必要です。
・低分子ヘパリンと産科のDICの最近の考え方
・腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧
・透析患者の精神科的薬物療法 透析会誌32(3):161-162.1999
透析患者のご家族の方へ
透析治療を開始する際にはこれからの生活や将来への不安を感じるものです。透析治療が始まってからも、合併症が現れた場合や治療法を変更する場合などは不安や気持ちの変化が出やすいでしょう。
ただ、時間が経過し透析生活に慣れてくると、不安を感じるときや気持ちが落ち込むときはありながらも、今の状態を受け入れながら生活していくように気持ちは変化していきます。
しかし、透析患者の中には、気持ちの落ち込みが大きく、精神的にも身体的にも辛いと感じる状態が長く続く人もいて、治療が必要なケースもみられます。
透析患者にいちばん近い存在のご家族は、距離が近いがゆえに透析患者と気持ちがぶつかってしまうことやどう接すればよいかわからないことも出てくることでしょう。
そういったときは第三者の医療関係者が介入することで良い方向に向かうこともあります。悩みや不安は抱え込まず、主治医や看護師、スタッフなどの医療関係者に、困っていることや気になっていることを相談してみてください。
まとめ
透析患者の中にはうつ症状を経験する人が多くいます。うつ病の薬物療法では抗うつ薬などのうつ症状を抑える薬が使われますが、薬の副作用で眠気や脱力感などがみられることがあります。生活に支障をきたす副作用がみられるようであれば、主治医に相談することも大切です。
透析患者をいちばん近くで支える家族は、患者の気持ちの揺れに戸惑うこともあると思います。患者の気持ちや生活の変化で心配なことがあれば、医療スタッフに相談しましょう。
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